コラム

トランプ政権のシリア情勢への対応は支離滅裂

2018年04月11日(水)11時40分

(3)自分は「プーチンの盟友」だと公言していたトランプ大統領ですが、その後自分とその周囲における「ロシア疑惑」が特別検察官によって追及されるようになると、急に「反ロシア」に方向転換をしています。

(4)その一方で、事実上アサド政権の支配を認めるような行動は顕著で、例えばシリア領内のクルド系勢力への支援をやめたり、元々は西側と友好的な反政府勢力だった「自由シリア軍」系の反政府運動への支援もやめたりしています。

(5)シリアについては、とにかく「ISIS(イスラム国)」を叩くためには手段を選ばないと公言していたのですが、ISIS弱体化の後にはどうするのかという方針については、まだ何の発表もありません。

(6)ただ、トランプ政権としても「実際に化学兵器が使用される」のは絶対に許さないという姿勢は取っており、前回2017年にアサド政権が再び化学兵器を使用したと報じられた際には、アメリカ軍としてシリアの空軍基地に巡航ミサイル攻撃を行っています。

つまりシリアについては、ロシアの後援を受けたアサド政権による秩序を容認する姿勢を見せる一方で、化学兵器が使用されるとアサド政権への批判や場合によっては攻撃も行っているのです。こうなると支離滅裂としか言いようがありません。

では「化学兵器使用疑惑」が出た直後に、アメリカではなくどうしてイスラエルがアサド政権の空軍基地を攻撃したのかと言うと、アサド政権と敵対しているイスラエルとしては、事態の推移におけるイニシアチブが取りたかったのでしょう。おそらくトランプ政権を信用していないと考えられます。

これから朝鮮半島の非核化という大きなテーマに挑むトランプ政権としては、このシリアでの失敗は許されないはずです。ですがこれまで取ってきた対応は支離滅裂で、今回も手詰まり感が否定できません。


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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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