コラム

トランプが暴言ツイートを再開させた「ハミルトン事件」

2016年11月22日(火)15時00分

Mike Segar-REUTERS

<人気ミュージカル『ハミルトン』の出演キャストからおくられたペンス次期副大統領への「忠告」に反発したトランプが、しばらく控えていた暴言ツイートを再開>(写真:トランプとペンスの見解の「不一致」は選挙運動中にも見られた)

 ドナルド・トランプ次期大統領は、今月9日未明の勝利演説以来「暴言モード」の発言や「暴言ツイート」は自制していました。ですが、ここへ来てガマンできなくなったのか、再び「荒っぽいツイート」を始めました。

 トランプが「暴言ツイート」の材料にしたのは、「ハミルトン事件」でした。今月18日金曜日に、ブロードウェイの大ヒットミュージカル『ハミルトン』をペンス次期副大統領が観劇した際の出来事です。

 このミュージカルは、アメリカ合衆国の「建国の父(ファウンディング・ファーザーズ)」の一人であり、初代財務長官も務めたアレクサンダー・ハミルトンの伝記作品で、半年先まで売り切れという空前のヒットになっています。

 作品は、ロン・チャーノウが書いた『ハミルトン伝』を原作にしており、独立戦争を支えたとか、憲法を起草したといった「教科書に出てくるような功績」ではなく、カリブ海の小島で10代の時から小さな商会を経営して商船主などと丁々発止のやり取りしてきた前半生、そして、その経験を活かして「天性の交渉人(ネゴシエーター)」として頭角を表していくというキャラクターに焦点を当てています。

【参考記事】ブチ切れトランプが復活? コメディ番組のモノマネに激怒

 ミュージカルの方は、リン・マニュエル・ミランダというプエルトリコ出身の俳優が作曲して自ら主演し、ラップ仕立ての音楽で政治ドラマと心理ドラマを描き出すという演出が大好評になっています。ちなみに、作曲者のミランダを含むオリジナル・キャストは既に降板し、現在の主役(といってもハミルトンではなく、宿敵のバー副大統領の役ですが)はブランドン・ビクター・ディクソンというブロードウェイのベテラン俳優が務めています。

 18日の舞台では、客席でペンス次期副大統領が観劇していたのですが、終演直後に主演のディクソンが短いステートメントを読み上げたのでした。その内容は極めて穏健なもので、

"We truly hope that this show has inspired you to uphold our American values and to work on behalf of all of us."(私たちは、この舞台が次期副大統領である貴殿がアメリカの価値観を尊重し、我々全てのために働くというインスピレーションを喚起することを、心から希望するものであります)

 という内容でした。場内からは、ディクソンに対するブーイングと、ペンス次期副大統領に対するブーイングが起きたそうですが、これに対してディクソンは「ブーイングするようなものは何もありません。この作品は全てが愛について書かれたものです」という「切り返し」をやって喝采を浴びたそうです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏GDP、第1四半期前期比+0.4%に加速 

ビジネス

米財務長官、EUと相互の関税引き下げ「不可能でない

ビジネス

米関税措置、撤廃求める基本姿勢は変わらない=石破首

ビジネス

フジHDの25年3月期、一転最終赤字に 金光社長は
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    中居正広事件は「ポジティブ」な空気が生んだ...誰も…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 9
    トランプの中国叩きは必ず行き詰まる...中国が握る半…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story