コラム

「デジタルデフレ」こそ、世界経済が直面するリスク

2016年06月02日(木)16時40分

 もう一つは、文化の均一化と廉価化です。ファストフード、ファストファッション、LCC(格安航空会社)による移動など、デジタル分野以外の消費活動でも、グローバルな均一化、廉価化、大衆化が進んでいます。こちらにおいても、経済のメカニズムは右肩上がりではありません。

 アメリカを始めとした先進国で「中流が消滅」して、トランプやサンダースのようなポピュリストが「ウップン晴らし」を煽っているのも、中国やブラジルの経済が苦境に立っているのも、この2つの要因が根本にあるのだと思います。

 日本の場合は、ドル建てで見た人件費や生活費からは、明らかに先進国型経済であるにもかかわらず、先進国の「飯のタネ」であるべき、最先端の技術分野と産業としての金融ビジネスが育っていないために、グローバルなデジタルデフレの影響をモロにかぶっていると言えるでしょう。

 ですから「リーマン直前」という言い方にはやや語弊があるものの、外的要因、あるいは世界共通の要因から日本経済へのマイナスの圧力がかかっているという認識は間違いではないと思います。

【参考記事】アベノミクスは敗北か「転進」か?円高が告げるインフレ目標の終焉

 では、今回の参院選における経済政策の焦点はどこにあるのでしょうか? まずは「2019年10月に本当に税率アップ」ができるような経済の状態に持っていくには「どうしたら良いか?」というところが争点になるべきだと思います。

 この点に関して野党は「アベノミクスが失敗した」という評価で政権批判を始めています。ですが、ここまでのアベノミクスは「円安と株高」に関しても、「財政出動」にしても、基本的には「景気に対してプラス要因」ではあっても「マイナス要因」ではなかったはずです。

 一方で「第三の矢」、つまり構造改革があまりにも遅いので経済成長ができていないという批判も可能ですが、現在の野党には構造改革をやり抜くような思想的一貫性はなさそうです。もちろん、構造改革は待ったなしだと思いますが、2019年10月の税率アップを成功させるためには、構造改革がもたらすプラス要因だけでは、とても足りないと思います。

 一つ可能な議論は「空洞化の防止」です。アベノミクスの「円安」は、ドナルド・トランプが批判しているように、日本経済が輸出産業の雇用を守るために為替操作をしたのでは「ありません」。

 空洞化は恐ろしい速度で進行しており、例えばトヨタ自動車は、長年愛知県の田原工場で作っていた高級車の「レクサス」ブランド製品についても、今はボリュームゾーンの「ES」をケンタッキーで、「RX」をカナダのオンタリオで生産するようになっています。日本が得意にしていた「モノづくり」にしても、その現場はメキシコやベトナム、ミャンマーなどへどんどん流出しているのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米3月の卸売物価は前月比下落、前年比の伸び鈍化 見

ビジネス

グローバル債券ファンド、週間の売越額5年ぶりの大き

ビジネス

米Wファーゴ、第1四半期はコスト削減奏功 関税受け

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、4月速報値は悪化 1年先
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税大戦争
特集:トランプ関税大戦争
2025年4月15日号(4/ 8発売)

同盟国も敵対国もお構いなし。トランプ版「ガイアツ」は世界恐慌を招くのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 3
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助けを求める目」とその結末
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 6
    米ステルス戦闘機とロシア軍用機2機が「超近接飛行」…
  • 7
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 8
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 9
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 10
    関税ショックは株だけじゃない、米国債の信用崩壊も…
  • 1
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 2
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    凍える夜、ひとりで女性の家に現れた犬...見えた「助…
  • 9
    ロシア黒海艦隊をドローン襲撃...防空ミサイルを回避…
  • 10
    「やっぱり忘れてなかった」6カ月ぶりの再会に、犬が…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    公園でひとり歩いていた老犬...毛に残された「ピンク色」に心打たれる人続出
  • 3
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story