コラム

オバマの歴史的キューバ訪問で、グアンタナモはどうなる?

2016年03月22日(火)17時10分

現職のアメリカ大統領としては実に88年ぶりにキューバの地を踏んだオバマ Ivan Alvarado-REUTERS

 今月20日、オバマ大統領は歴史的なキューバ訪問を成し遂げ、専用機「エアフォースワン」でハバナに降り立ちました。アメリカとキューバは、すでに昨年7月に国交を回復していますが、この首脳会談と前後してアメリカの航空会社のハバナ乗り入れや、ホテルの進出が進んでおり、両国の関係はさらに進むことと思われます。

 それにしても、1959年元旦のキューバ革命から57年、1961年の断交から55年という年月を経て、今回アメリカの大統領がキューバの地を踏んだことに、あらためて深い感慨を覚えます。

 そのアメリカとキューバの関係ですが、1つ残された問題があります。それはキューバ本島の南西端にある「グアンタナモ湾」の扱いです。ここは縦10キロ、ヨコ20キロぐらいの広い土地で、アメリカが占領しているというより、アメリカがキューバとの条約に基いて「永久租借」をしている土地で、事実上の海外領土となっています。

 東西対立の厳しい時代を通じて、どうしてアメリカが「敵国キューバ」の島内に租借地を維持していたかというと、そこには歴史的な経緯があります。そもそもキューバは、スペインの植民地でした。そのキューバが独立できたのは、1898年の米西戦争でアメリカが勝利してスペインを追放したからです。

【参考記事】アメリカと和解したカストロ政権の大ばくち

 その後1902年にキューバは独立しますが、アメリカは条約によってこのグアンタナモ湾地域を永久租借する権利を得たのでした。正確に言えば、まずアメリカはキューバ全体を占領して、そこからグアンタナモ湾地域以外だけを独立させたとも言えます。

 この租借は、途中に色々な条件変更はあったものの、共産主義化したキューバとなっても続いてきました。そして、アメリカはこの地区に海軍基地を設置して現在にいたっています。有名なのは、911のテロ事件以降、ブッシュ政権がゴンザレス司法長官の強引な法解釈によって、この基地内に「テロ容疑者の収容所」を設置した問題です。

 どうして、このグアンタナモに収容所を設置したのかというと、このグアンタナモは「アメリカの租借地、海外領土」であり、合衆国憲法の効力が及ばないという考え方に基づいています。

 これは、アメリカ国内で、ここ15年にわたって続いてきた議論なのですが、とにかくブッシュ政権と、その流れを汲む共和党の保守派にとっては、「テロリストに合衆国憲法の基本的人権は与えない」というのが「譲れない基本原則」になっているからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに

ワールド

米共和党の州知事、州投資機関に中国資産の早期売却命

ビジネス

米、ロシアのガスプロムバンクに新たな制裁 サハリン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 6
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 9
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 10
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 6
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 7
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 8
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 9
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 10
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story