コラム

三原議員「八紘一宇」発言は笑えない問題

2015年03月19日(木)12時53分

 このままでは、円安のプラス効果が発揮できない中で、デフレ脱却の決定的な兆候が見えていない状況です。その大きな要因の中には、企業がどんどん海外に移転している、つまり日本を脱出しているという問題があるわけです。その結果として、円安にしてもGDPが大きく改善していないのです。

 つまり、国内の競争力を回復するということは、つまり外へ出ていった企業が戻ってくるような政策を採らなくてはならないわけです。そのために安倍政権は今回、諸外国より高率である法人税の引き下げに踏み切りました。

 ですが、これで世界に逃げていった企業の工場、事業所が日本に戻ってくるかというと、そう簡単ではないわけです。例えば英語を使った法務や会計への対応、国際的な会計基準への対応、オフィスワークの生産性向上、あるいはビジネスに関わる諸規制といった問題にメスを入れて、本気で改革に取り組まなくては流出した経済や雇用は戻ってはきません。

 そう申し上げると、株は高くなっているではないかという反論が来るかもしれません。ですが、現在の株高と、その背景にある企業の好業績の理由を考えると、全く楽観はできないのです。というのは「円安になって日本に仕事が戻ってきたので、安い日本のコストで作った製品が海外で売れて円安効果が出ている」からというのは、株高の主要な原因では「ない」のです。

 そうではなくて、海外で作って海外で売って得た利益を、そのまま円安になった交換レートで「円建てで連結決算」すると大変に大きな数字になる、現在の企業の好業績であるとか株高というのは、そうした構造の結果なのです。

 アベノミクスの「第3の矢」は、この問題にメスを入れて、本当に雇用が国内に戻ってくる仕組み、国内の実体経済が成長する仕組みを作らなくてはならない、そのための改革です。他でもない安倍首相以下、自民党の与党議員は2015年3月の現在は、そのために努力をすべきなのです。

 三原議員の発言の何が問題なのかというと、「租税回避」への批判を行うということは、現時点では、つまり日本経済がデフレ克服ができるかできないかの瀬戸際においては、明らかに優先順位が低い問題だということです。

 もっと言えば、せっかく法人減税をしてビジネスの海外流出を防止しようとしたのに、大企業優遇をイヤがる世論に迎合して、急務である改革よりも「多国籍企業バッシング」というまるで左派ポピュリズムに迎合したようなことを言っているわけです。その中身を覆い隠すために用語だけは古色蒼然としたものを使って「右派的」なスパイスを利かせた――今回の「お騒がせ」発言はそのように見ることもできます。

 いずれにしても、まったく笑えない話です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ軍事作戦を大幅に拡大、広範囲制圧へ

ワールド

中国軍、東シナ海で実弾射撃訓練 台湾周辺の演習エス

ワールド

今年のドイツ成長率予想0.2%に下方修正、回復は緩

ワールド

米民主上院議員が25時間以上演説、過去最長 トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story