コラム

都知事選の示す深刻な「東京病」に処方箋はあるのか?

2014年01月14日(火)10時53分

 東京の有権者が愚かではないのだと思います。そうではなくて、もっと根深い問題があるように思います。それは有権者に根深い分裂があるということです。世代によって、階層によって、家族の有無、子供の有無によって、個々の有権者は具体的な政策への利害を大きく異にするわけです。そこで、具体論に突っ込んで行けば行くほど、都民の世論は分裂し対立するでしょう。

 首都高の更新などという問題も、都市計画としてどうすべきかという観点以前に、自動車を仕事に使っている人、個人として自動車を運転する人、自動車を持っていない人、そもそも家から出て活動できない人など、それぞれに「自動車への関わり」がバラバラである中では、意見のまとまりようがないのだと思います。

 高齢者に配慮しようとすれば現役世代に手が回らなくなる、子育てがしやすい政策にすれば、それは子供のない人には関心のない話になる......そんな中で多くの候補が具体的な政策論に関しては「総花的で毒にも薬にもならない」公約を掲げざるを得なくなるわけです。そうなると、決め手としては「カルチャー」の話題で「陣営をまとめよう」という動きになり、ナショナリズムとか、脱原発などという話が「旗印」として浮かび上がってくるわけです。

 ナショナリズムとか、脱原発というのは、それぞれに賛否があり、その両者の間では厳しい対立を抱えた問題です。ですが、賛成派の中、反対派の中は極めて対立の少ない一方で、現実を離れた抽象的な言論で済む「安楽な世界」になっているわけです。その安楽さが「票を固めてまとめてくれる」のであれば、どうしても候補はその方向へ向かうことになります。

 では、この現状は「東京病」であって、治す薬はないのでしょうか? 私はそうは思いません。今は大いに分裂をしていいのだと思います。子育て中のグループ、単身者のグループ、正社員のグループ、非正規雇用のグループ、引退した世代のグループ、国際化に熱心なグループ、環境問題にこだわるグループなど、それぞれのグループが各都知事候補を「自分たちの利害から」審査したり推薦したりして、有権者の投票行動に役立つようにしたらいいのです。

 その結果として、少なくとも各候補の「実務能力」や「未経験の問題に直面した場合の解決能力」などを問うていくことができれば、選挙の「中身」は自然と充実してゆくのではないでしょうか?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story