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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
ドラマ『半沢直樹』は、あくまでファンタジー
現在、所要のため日本に一時帰国中で、人気ドラマ『半沢直樹』を見る機会がありました。主演の堺雅人さんをはじめ、香川照之さん、片岡愛之助さん、及川光博さん、赤井英和さんなど演技のアンサンブルが素晴らしく、ドラマとしては見応えのあるクオリティの作品だと思います。
一方で、ドラマの内容には、私は笑えないものを感じたのも事実です。
1つは、日本の企業では大なり小なりこうした「理不尽な支配」というものが横行しており、「正論が通らないもどかしさ」とか「反抗したいが、したら切られる」という中で、堺雅人さんの爽快な「やられたら倍返し(10倍返しというのもあるようですが)」という姿に「憧れる」人が多い、その現実にリアルなものを感じたからです。終身雇用と、共同体への帰属・依存がまるで幕藩体制のように、「個」を蝕んでいく、そこには近代は感じられません。
そうしたカルチャーの問題に加えて、経済ドラマとして見るのであれば、これは資本主義でも自由経済でもないし、こんな非効率が横行していたら日本経済は完敗につぐ完敗だろう、そうした危機感も感じました。
何よりも、この『半沢直樹』ですが、スタートしてもう「エピソードとしては拡大版が3回」つまり200分近くが過ぎている(ドラマ内の時間では数週間)にも関わらず、銀行として「収益を生んでいる」シーンは全く出てきていません。多くの登場人物が「まったくもってブラックとしか言いようのない深夜残業」をし、大変なストレスを抱えて必死に事務仕事やコミュニケーション、あるいは貸付先の現場を歩いているわけですが、売り上げも利益も、あるいはキャッシュフローにしても、ビタ一文のプラスは出て来ないのです。何という非効率でしょう。
それよりも問題なのは、個人と法人の概念がグチャグチャになっていることです。中小企業のオーナーは個人保証を入れているから企業が倒産したら首を吊って自殺する、一方で悪どい連中は企業を計画倒産させて資産を海外に移転して安逸な暮らしをしようとする、その上で、銀行はその個人のカネを差し押さえるために必死になる、こうなると全体はカオスだとしか言いようがありません。大銀行の内部も、公私混同だらけです。
法人と個人の区分けもできていない一方で、民事と刑事の法制上の問題もゴチャゴチャにされています。明らかな「ワル」が出て来ますが、これに対して被害者の銀行は民事訴訟で対抗するわけでも、刑事告発で対処するのでもありません。カネを損したと怒ってみたり、手段を選ばず回収しようとしたり、要するに法治国家の紛争解決システムを全く信じていないわけです。
これに加えて、メガバンク級の銀行が舞台であるにも関わらず、内部統制が機能せず、IT化も進んでおらず、与信のノウハウもなく、外国人行員や女性の管理職も出て来ない、まるで昭和の時代のようなドラマが展開されます。と言いますか、この『半沢直樹』というドラマのストーリーラインは、別に現代が舞台である必要はなく、このまま『大岡越前』や『水戸黄門』の一回分にしても、全く違和感がないわけで、昭和どころか江戸時代の感覚と大差ないのかもしれません。
いずれにしても、法や契約という近代の概念が信じられず、全ては狭い世界の政治、つまり個人の自尊心を削り合う心理ゲームに収斂してしまうというこのドラマは、日本の企業社会の持っている前近代性と非効率性を見事に暴き出していると言っていいでしょう。
ただ、そこまで目くじらを立てるというのは野暮なのかもしれません。実際の日本のメガバンクは、もっと多様な人材が活躍していますし、本当の意味でのコンプライアンスを重視した経営も進んでいます。IT化やペーパーレスも進んでいます。メンタルへの負荷をかけないコミュニケーションというものも、現代では「まともな」会社なら、相当まじめに取り組んでいます。
そう考えると、このドラマは「再開発後の梅田にあるメガバンク支店」を舞台にしながら、昭和の時代のビジネス心理劇を展開したノスタルジックなファンタジーと考えるべきなのかもしれません。ということは、別に『水戸黄門』と変わらないというわけです。いずれにしても、ドラマの持つリズム感、緊張と弛緩、カタルシスの演出などエンターテインメントとしては、なかなかの出来だと思います。
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