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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
石川遼選手「無免許運転」事件の背景とは?
国際免許証に関してはジュネーブ条約というのがあって、基本的に加盟国の免許を持っていると、その免許を発行した国で国際免許証(有効期間は1年)を取得することができ、その国際免許があれば他の加盟国では運転できることになっています。
この運用は非常にシンプルにできていて、例えばアメリカの場合ですと、私の住んでいるニュージャージー州などでは、国際免許の取得は警察でも運転免許試験場でもなく、AAA(トリプルエー)という日本のJAF(日本自動車連盟)が旅行代理店を併営しているような民間団体に委ねられています。費用は15ドル(1200円)で面倒な人は申請書を郵送してでも申し込めるのです。
石川選手は、アメリカで免許を取得して、その後この国際免許を取り、それで日本で運転したのが問題になったのですが、こうした「シンプルな」アメリカの事情の中では、仮にAAAで申請をした際に、「これで日本で運転できますか?」と尋ねれば「ノー・プロブレム」という答えが来るのは当然です。AAAの資料には「日本イコール無条件で国際免許が通用する国」という風に書いてあるからです。
ところが実際は無条件ではないわけで、というのは日本に住民票がある(外国人登録している人を含む)人の場合は、海外で免許を取ったら「連続して3カ月」その国にいないと日本に帰国してから国際免許での運転は認められないことになっているからです。調べてみると、背景には複雑な問題があるようです。
まず思いつくのは、運転免許取得費用に関わる内外価格差です。日本で取るのは高いから、海外で取ろうという人を防止する、そのためにこうした「規制」があるという印象です。今回の石川選手の問題が報道された際にも「形式的に3カ月滞在しろというのは、海外で免許を取らせないための形式的な縛りでは」という印象を与えたかもしれません。
ですが、実際は違うようです。問題は「日本国内で免許取り消しになった」ドライバーが、免許を再取得できない「欠格期間」に渡航して海外で免許を取り、日本に戻って堂々と国際免許で運転するというようなケース、あるいは「もうすぐ免停になりそう」とか「今度は取り消し」というようなドライバーが、海外で国際免許を作って日本で運転する際に「日本の免許を持っていることを隠す」などというケースです。
いわば、危険度の高いドライバーを規制するための免停や取り消しのシステムの「抜け道」に、ジュネーブ条約に基づくオープンな国際免許制度が悪用されているわけです。そうした犯罪を防止しなくてはならない苦肉の策として、この「3カ月」という規制ができているわけです。国内の自動車教習所の「既得権益」をどうこうという問題ではないようです。
ちなみに、この内外価格差の問題ですが、確かにアメリカの免許取得費用は日本に比べれば格段に安いのは事実です。ですが、社会全体としては別の形でのコスト負担という形で返ってくるという面は勿論あるわけです。免許取り立ての若者が無謀運転で事故を起こすダメージの分は「高額な自動車保険料」という形で社会全体がコストを負担しています。免許取得前後に、子供に運転を教えるために親が手間をかけるということもあります。
そんなわけで、石川選手の今回の問題は「非常に深刻な問題」ではないかもしれませんが、同時に弁明のしようもないということになるのではと思います。1つだけ、私がどうしても引っかかるのは、PGAをはじめ、大会スポンサーや放送局など大会を仕切っている関係者がどうしてチェックできなかったのかという点です。
プロゴルフの場合、日本国内でも優勝の副賞としてスポンサー企業がクルマをつけるということは、非常に幅広く行われているわけです。優勝トロフィーと共に、大きな黄金のカギをスポンサーの自動車メーカーから贈呈されるシーンは、それ自体が広告効果を狙って表彰式の大事な部分になっています。
ということは「ゴルファーは善良なドライバーである」ということは、業界全体のビジネスモデルとして組み込まれていなくてはならないわけです。無効な国際免許がどうこうという以前に、プロゴルファーであれば免許取得年齢になったら、即座に連盟が合法的に免許を取得するように促すべきだったのではないでしょうか。仮にドライバーとして何らかの問題を抱えた選手が優勝して、スポンサー企業から「黄金の鍵」を贈呈されても、スポンサーとしては逆効果になるからです。
どうもその辺が不思議なのですが、それ以前の問題として、メンタルな部分が大変に微妙な形でプレーに影響するのがゴルフというスポーツなわけで、この種のトラブルを抱えることは選手のプレーへの悪影響も心配されます。その意味でも、何とも残念な事件だったと思います。
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