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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
オバマはどうして「90度のお辞儀」ができたのか?
オバマ大統領が訪日中、赤坂御所の天皇皇后両陛下を訪れた際に、車寄せでの初対面にあたって「90度のお辞儀」をしたというのが、話題になっています。私は見ていませんが、FOXニュースなどの保守系メディアが批判しているようです。確かにアメリカ人の半分ぐらいの人の感覚からすると、「自分の国を代表する大統領が、他国の元首に対して90度頭を下げるというのは、自分を含めたアメリカ人が卑屈になったよう」だということになると思います。
その背景としては「お辞儀」という文化がアメリカにはないということがあります。政治家にしても、芸能人にしても、スピーチの前後に壇上でお辞儀をするということはありません。コンサートや、オペラ、演劇などで拍手に応えてのお辞儀はありますが、あれは「ヨーロッパから来た舞台上の特殊な習慣」という理解がされています。何よりも相手の目を見るのが礼儀であって、握手をするときも目線を下げてアイコンタクトを避けるのは失礼とされています。
もう一つ、「お辞儀」についていえば、以前に糸井重里氏との対談の際にお話したのですがアメリカの黒人家庭では、子供に「人様に頭を下げてはいけないよ」という教育をする時代があったのです。人種としての尊厳を否定されていた世代が自由になった世代に対して「とにかく上を向いて生きろよ」という「躾(しつけ)」をしていたというわけですが、この点についても、バラク・オバマという人は全く気にしていないということが分かり、興味深かったのです。
そのオバマのアイデンティティということでは、テンプル大学ジャパンの助教授であるジョン・マーサ・ミリキタニ氏という方が、面白い証言をしておられるそうです。経済評論家の吉崎達彦氏が「溜池通信」というサイトの2009年8月16日の「日記」で紹介されたものの孫引きなのですが、ハワイでオバマの2年後輩であったミリキタニ氏によれば、高校時代のオバマは「裕福な白人やアジア系の生徒たちと気ままに付き合い、(中略)人種/アイデンティティには無関心であった」というのです。
ミリキタニ氏によれば、大統領選において黒人のアイデンティティを前面に出さずに戦えたのは、選挙戦略ではなく、そもそも若き日のオバマがそうしたアイデンティティについて無関心だったからだというのです。吉崎氏も、そんなミリキタニ氏の指摘を受けて、現在のオバマとのイメージギャップを語っておられますが、これも私に言わせればむしろ納得させられる話なのです。というのは、黒人社会ではないコミュニティや、多人種で構成された家庭などでは、黒人の血を引く子供に対して「人種を意識させない教育」を施すことがあるからです。
黒人のアクセントを教えない、ネガティブな文脈で人種を話題にしない、人種差別的な感覚を持つ人を徹底的に遠ざける、といった行動を通して、子供をあらゆる差別やアイデンティティの危機から守り抜く教育とでも言いましょうか、恐らくオバマの人格形成に大きな影響を与えた、祖父母のスタンリー&マリリン・ダナム夫妻は、ハワイという土地でそのような態度で、娘とケニア人男性の間に生まれたバラク少年を育てたのだと思います。
黒人コミュニティに見られる「頭を下げてはいけない」という教育、非黒人コミュニティにおける「黒人の子供に人種を意識させない」という教育、そのどちらも次世代に対する愛情から来ていることは間違いありません。ちなみに、少し以前までは「黒人アクセントを話さない黒人はニセモノ」という偏見から、この2つのコミュニティ出身者はなかなか「打ち解けない」ような雰囲気もあったのですが、今は他でもないオバマ大統領の登場ということもあって、そうした距離感は改善されています。
そんなわけで「90度のお辞儀ができてしまった」ということは、オバマが受けてきた教育の特殊性の表れだと言えそうです。それが、異文化への柔軟な適応能力になっているのだと思います。ただ、平均的なアメリカ人には「国を代表する」という観点からの違和感が、そしてFOXは伝えていないようですが、黒人コミュニティ出身者からは「他の人種に頭を下げるのはどうも」というリアクションが出るかもしれません。これは仕方がないと思います。そんなわけで、いくらオバマのお辞儀が有名になったからといって、他のアメリカ人に「90度のお辞儀」を期待するのは止めた方が良いと思います。
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