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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
オバマでも伸びなかった投票率の秘密
7月20日に連邦政府統計局(センサス・ビューロー)は、昨年11月の大統領選における投票率のデータを公表しました。住民登録制度のないアメリカでは、投票総数や各候補の得票は分かっても、肝心の「分母」つまり、地域・人種・年齢といった要素で切り分けたものを含む「総数」は簡単には把握できません。そこで、統計局から「あの時の人口」(実は高度な統計処理による推定値ですが)を教えてもらわないと「率」は出ないわけで、それで今頃になっての発表になったというわけです。
さて、この結果の中で意外だったのは、「史上初の黒人大統領オバマ」の「旋風」にも関わらず投票率が横ばいだったということです。2004年の「ブッシュ対ケリー」の際の投票率が64%、そして今回の「オバマ対マケイン」も64%という数字でした。ちなみに、日本では小数点以下まで計算して「下がった」という報道がされていますが、アメリカの当局は「統計的には横ばい」と言っています。どうも数字の精度として、小数点以下はあまり意味がないようです。
小数点の話はともかく、「オバマ旋風」でも投票率が伸びなかったのはどうしてなのでしょう? そこにはアメリカ独特の政治風土の問題があります。1つには「投票所に行ったり行かなかったりする層」の存在です。例えば、宗教保守といわれる勢力ですが、彼等が強く関心を寄せるのは「社会価値観」つまり中絶など生命倫理の問題や、銃規制への反対というテーマであり、こうした問題が軍事外交政策や経済政策よりも重要だと考える人々です。彼等は、自分たちの思想に共鳴してくれる人は「真性保守」だとして強く支持しますが、気に入った候補がいないと投票所に行かないのです。
例えば、2006年の中間選挙では、ハリケーン・カトリーナの災害対応で当時のブッシュ大統領の人気が下がった結果、共和党が大幅に議席を減らしたと言われていますが、それ以上に、共和党議員の「少年愛疑惑」を宗教保守派が嫌ったということ、具体的には宗教保守派が投票所に行かなかったのが痛手になったと言われています。2008年の大統領選では、中道のマケイン候補は「真性保守にあらず」というレッテルを貼られていましたし、そのためにペイリン知事を副大統領候補に据えたのですが、それでは足りずに共和党支持の中から多くの棄権者を出したと見るべきでしょう。
もう1つ、民主党支持層の中で「行ったり行かなかったり」するのは黒人票です。彼等は政策論だけでなく「黒人への尊敬心を持っているか?黒人の民生向上に努力してくれるのか?」を基準に候補を評価して、「信用できる人物がいない」場合は投票所に行かないのです。例えば、2000年、2004年のブッシュの勝利の背景には黒人の低投票率があるという分析が可能ですし、1992年、1996年のビル・クリントンの勝利には「南部出身で黒人コミュニティで育った」彼のことを「初の黒人大統領」という言い方で支持した黒人票の存在がありました。
ですから、2008年の選挙の投票率に関して言えば、白人の保守票から大量の棄権が出て、黒人票、若年層の票の上乗せ分を食ってしまったということ、非常に表面的に言えばそういうことになります。では「オバマ旋風」は所詮はその程度だったのか、というとそんなことはありません。そこにもう1つの問題があります。それは、アメリカの大統領選の投票プロセスそのものに、物理的なキャパシティーの問題があるということです。
というのは、いくら全国レベルの連邦政府のトップを決めるといっても、各州の選挙は各州の州法によって進行しますし、各市町村の選挙はそれぞれの地方の予算で実施されます。また、住民登録制度がないアメリカでは、選挙のたびに「選挙登録」をしなくてはなりません。その結果として、行こうと思ったが「混んでいて止めた」とか「手続きが面倒で止めた」という人がぞろぞろ出るのです。そう言うと、不真面目な人が多いようですが、実際に手続きは面倒で、しかも投票所のキャパシティーがないために、投票するのには長蛇の列ということになると、諦めて帰ってしまう人も出ます。
その中には「これだけオバマが優勢なのだから、まあ大丈夫だろう」という感覚で「止めてしまった」という人も多いと思います。ですから、投票率が「横ばい」だったので「オバマの政治的資産は大したことはない」とか「それほどの圧勝とも言えない」というのは間違いだと思います。また、アメリカ人が政治に無関心だったり、政治不信のために(勿論、そうした感覚もあるにはありますが)投票率が伸びないという言い方も正確ではないと考えられます。
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