コラム

「落第」習近平を待つアメリカの評価

2015年09月08日(火)16時20分

 中国の習近平国家主席は9月25日前後にアメリカを訪問する。ホワイトハウスでは建物の南に位置する広場「サウスローン」で歓迎式典が行われる予定だ。

 中国国内で、習近平は反汚職キャンペーンという「金棒」で政敵を叩き潰すだけでなく、党中央に新設した「財政経済指導小組」など10数個の小組トップを自ら兼務。政府機構は骨抜きになり、7人の政治局常務委員による協力と分担は彼の独断に取って代わられた。

「法治」も落第だ。浦志強弁護士や高瑜記者の逮捕など人権活動家に対する弾圧が加速しており、7月にはさらに大規模な弁護士拘束事件も発生。多くの人たちがいまだに釈放されていない。習近平の反汚職キャンペーンは法的手続きをまったく無視して続いており、腐敗幹部に対して共産党は「家法」である「双規(編集部注:共産党内部で法律に基づかず人身の自由を制限し、隔離・審査する制度)」を使って捜査・拘束を続けている。そして反汚職キャンペーンでは「大トラ」も「小バエ」も摘発されているが、決してこの国の本当の統治者である「赤い家族」の後継者たちには及んでいない。

 経済では、過去に例のない株価騒動が起きた。株式市場のパニックは株だけにとどまらず、深刻な危機に直面していた中国経済の前途を暗澹たるものにした。さらに中国政府が株式市場を救うために取った措置は世界を落胆させた。政府の強力な市場介入は価格崩落を止める効果がなかっただけでなく、悲観的な中国人投資家の市場撤退を招いた。

 社会の安全でも習近平のメンツがつぶれる事態が相次いだ。天津の化学倉庫の大爆発に続いて全国各地で化学工場の爆発事故が発生。国民の安全への信頼はすっかり失われ、もともと自分が中産階級に属していると思っていた人たちも、底辺レベルに暮らす貧しい人たちと自分たちが実はそう違わないことに気付いた。自宅の目の前で起きた大爆発で家族を失い帰る家もなくなった人々は、炭鉱事故の政府責任を追及する遺族や「陳情者」に直接教えを請うたが、彼らが直面したのはやはり政府の冷たい態度だった。

 宗教では、共産党は今でも法輪功に対する弾圧をやめず、チベット問題でも強硬姿勢を続け、ダライ・ラマの中間路線を拒否している。最近はキリスト教に対する弾圧も強め、浙江省などで1000あまりの教会の十字架を破壊した。

 アメリカ政府も、習近平の脅威を感じている。中国政府のハッカー組織はアメリカ政府職員の情報を大量に盗んだが、それ以前にも中国はハッカーやスパイを使ってアメリカの企業情報や軍事情報を入手していた。アメリカの対中政策には大きな変化が起きている。それまでアメリカは、中国の経済発展をまず助け、国民収入が一定レベルに達するのを待って政治改革が起きれば、世界は文明的になった中国を迎えることができる――そう考えていた。

 しかしこの数十年間に起きたことは、アメリカの対中政策の専門家を大いに落胆させた。政権を握って以降、口では「民主」「法治」と言いながら、習の実際の行動がまったく別物だったからだ。アメリカは今後、中国との協力を求める姿勢から中国の台頭を抑制しようとする姿勢に変わるだろう。もともと好意的だった中国専門家たちの中国の前途についての見方も、悲観的に変わりつある。2016年の大統領選を前に立候補予定者たち、特に共和党の立候補予定者たちは全員が中国を批判し、さらにその多くが習近平の訪米中止を叫んでいる。現在のオバマ大統領は交流継続を第一に考えているようだが、それでも彼すら会談の席で習近平に一席説教をぶとうと準備しているようだ。

 政府専用機のドアが開くとき、習近平は自分に向かってくるありとあらゆる批判の声に答える準備ができているのだろうか?

<次ページに中国語原文>

【お知らせ】中国・習近平体制とその言論弾圧ぶりを亡命漫画家・辣椒(ラージャオ)の作品を手がかりに鋭く切り取った新著『なぜ、習近平は激怒したのか/人気漫画家が亡命した理由』(高口康太著、祥伝社新書)が発売になりました。辣椒の政治風刺画も満載です!

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰

ワールド

トランプ氏、安保副補佐官に元北朝鮮担当ウォン氏を起

ワールド

トランプ氏、ウクライナ戦争終結へ特使検討、グレネル

ビジネス

米財務長官にベッセント氏、不透明感払拭で国債回復に
今、あなたにオススメ
>
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story