プレスリリース

ヤングプロフェッショナルが提言 海洋調査用水中ロボットの運用効率化に貢献する技術の開発 東海大学大学院 修士2年 稲森研究室 所属 杉野 晴紀 氏

2025年03月04日(火)14時00分
IEEE(アイ・トリプル・イー)は世界各国の技術専門家が会員として参加しており、先進技術の世界的な諸課題に関しても、さまざまな提言やイベント、標準化活動を通じ技術進化へ貢献しています。

IEEEメンバーである、稲森 真美子 教授の研究室で研究を行うヤングプロフェッショナルである杉野 晴紀 氏は、海洋調査用水中ロボットの運用効率化に貢献する技術の研究を行っています。この研究についてインタビュー形式でご紹介します。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/428120/LL_img_428120_2.jpeg
東海大学大学院 修士2年 稲森研究室 所属 杉野 晴紀 氏

Q.現在の研究分野をお聞かせください。もし、これまでに他の研究をされていらっしゃるようでしたら、そちらもお伺いできますでしょうか。

私は「海水中非接触電力伝送」をテーマに研究を行っており、特に海洋インフラの保守点検や調査を行う水中ロボット(AUV、ROV)の運用効率化に貢献する技術の開発を進めています。

現在、AUV(自律型無人潜水機)は搭載バッテリーで稼働するため、定期的に海上へ浮上して給電する必要があり、稼働時間に制限があります。一方、ROV(遠隔操作型無人潜水機)は給電ケーブルによって駆動しますが、ケーブルの長さが移動範囲に制限がありました。これらの課題を解決するため、海水中で非接触に電力を供給する技術を提案しています。

具体的には、海上の作業船から電源ケーブルを海中へ伸ばし、海底に設置した電力伝送装置を介して、非接触でバッテリーに給電する方式を検討しています[1]。この技術により、バッテリーの充電や交換のために海上作業を行う必要がなくなり、作業時間の短縮や活動範囲の拡大が期待できます。また、非接触給電は電極が露出しないため、従来の接触式充電に比べて安全性の向上も見込まれます。

この技術は、海底ケーブルや洋上風力発電設備などの保守点検作業の効率化や、長期間の海洋調査の実現が期待されており、特に日本のような海洋国家にとって大きな可能性を秘めた技術だと考えています。そんな海洋インフラの発展に貢献できる研究を進めています。

画像2: https://www.atpress.ne.jp/releases/428120/LL_img_428120_1.jpg
[1] 海水中非接触電力伝送のイメージ図

Q.「海水中非接触電力伝送」について研究されている理由やきっかけがあればお聞かせください。

私が海水中非接触電力伝送の研究を選んだきっかけは、純粋に「面白そう!」と感じたことが最初でした。電気をワイヤレスで送る技術自体にワクワクしていたのですが、それを海の中で実現できたら、一体どんな可能性が広がるのだろう?と考えた瞬間から強く惹かれました。
また、日本は海洋資源が豊富で、海に囲まれた国だからこそ、この技術が発展すれば日本の経済や産業の発展に大きな影響を与えると感じました。たとえば、海底資源の開発や海洋調査の効率化、さらには再生可能エネルギーの活用など、実用化が進めばさまざまな分野に革新をもたらすはずです。日本ならではの強みを活かし、新しい技術で未来を切り拓いていく----そんな可能性に魅力を感じ、この研究に取り組んでいます。


Q.この「海水中非接触電力伝送装置」の実現にあたって、現時点での課題をお聞かせください。

「海水中非接触電力伝送装置」の実現に向けて、現時点での主な課題は海水環境における給電効率の低下です。私の研究では磁界共振方式を採用していますが、空気中でのワイヤレス給電に比べ、海水中では電力伝送の効率が大幅に低下することが確認されています。
この課題を解決するため、現在、以下のアプローチで研究を進めています。
・海水中での電力伝送特性の定量評価
実験装置を用いて、海水環境下での電力伝送特性を詳細に分析し、伝送効率が低下する要因を定量的に評価しています。
・磁界解析シミュレーションの活用
磁界解析シミュレーションを用いて、目に見えない磁束を可視化し、海水中での送受電アンテナ間の磁束の流れを解析しています。これにより、効率向上に向けた設計指針を明確化しています。
・送受電コイルの最適化
コイルの形状や配置の改良、使用する線材の選定など、伝送効率を向上させるためのさまざまな検討を行っています。
これらの取り組みにより、海水中での非接触電力伝送の実用化に向けた技術確立を目指しています。


Q.この研究の先に思い描く未来の姿をお聞かせください。

私の研究の先に思い描く未来は、海洋での電力供給が当たり前になり、水中ロボットや海洋インフラがこれまで以上に自由に活躍できる世界です。
現在、海底資源の探査、海洋インフラの維持管理、環境モニタリングなど、海の中での活動はますます重要になっています。しかし、電力供給の制約により、AUV(自律型無人潜水機)やROV(遠隔操作型無人潜水機)の長時間運用が難しく、海洋調査や作業の効率が制限されています。
もし、海水中で非接触に電力を供給できる技術が確立されれば、水中ロボットはバッテリー切れを気にすることなく活動でき、より長時間・広範囲の調査や作業が可能になります。例えば、AUVが海底で自律的に充電しながら長期間データを収集したり、ROVがケーブルの制約なしに自由に移動して作業したりする未来が実現すると考えられます。
さらに、この技術が進化すれば、海底都市や洋上プラットフォームなど、新たな海洋産業の基盤となるインフラの構築も可能になるかもしれません。例えば、洋上風力発電施設と組み合わせることで、再生可能エネルギーを活用した水中給電ネットワークを構築し、エネルギーの地産地消が実現する可能性もあります。この技術が普及することで、海洋の可能性をさらに広げ、環境保護、資源活用、そして社会の持続可能な発展に貢献できると考えています。その第一歩となることを願い、研究に取り組んでいます。


Q.ご自身のこの先の未来像についてお聞かせください。

私は、これまで研究者として「海水中非接触電力伝送」という技術に取り組んできましたが、来年からは企業に就職し、セールスエンジニアとして、技術を実際の社会や産業に活かす立場になります。研究開発や設計ではなく、お客様に最も近い場所で技術の価値を伝え、課題解決に貢献することが私の役割です。研究を通じて培った知識や技術的な視点を活かしながら、お客様のニーズに寄り添い、最適なソリューションを提案できるエンジニアを目指しています。水環境に関するインフラに携わることで、持続可能な社会の実現に貢献し、技術と現場をつなぐ架け橋になりたいと考えています。


Q.最後にメッセージをお願い致します。

私は、研究活動だけでなく、技術の価値を広く発信することや、研究者同士のつながりを深めることにも積極的に取り組んできました。
電気学会誌「学生のページ」では、編修専門第四部会の学生委員として、価値のある技術や今後注目される最先端技術について学生の視点から取材し、記事を執筆していました。委員には、他大学のさまざまな学部・学科の学生や、教授、企業の方々が所属しており、委員の方と協力しながら、読者に技術の魅力を伝えることを目指していました。
この活動を通じて、多くの研究者と関わる機会があり、異なる分野の知見を得ることの重要性を強く実感しました。技術の発展には、特定の分野に閉じこもるのではなく、異なる専門性を持つ人々との交流が欠かせません。
そこで、より多くの研究者とのコミュニティを広げるために、今年度から「東海大学 Student Branch」を設立しました。この活動を通じて、異なる分野の研究者が交流し、新たなアイデアやコラボレーションが生まれる場を提供することを目指しました。
技術を「研究すること」に加えて、「発信すること」や「つなげること」も、技術の発展や社会実装において重要な役割を果たすと考えています。今後も、このような経験を活かし、異分野の知見を積極的に取り入れながら、社会と技術の橋渡しができるような活動を続けていきたいです。


■IEEEについて
IEEEは、世界最大の技術専門家の組織であり、人類に恩恵をもたらす技術の進展に貢献しています。160カ国、40万人以上のエンジニアや技術専門会の会員を擁する非営利団体で、論文誌の発行、国際会議の開催、技術標準化などを行うとともに、諸活動を通じて世界中の工学やその他専門技術職のための信用性の高い「声」として役立っています。
IEEEは、電気・電子工学およびコンピューターサイエンス分野における世界の文献の30%を出版、2000以上の現行標準を策定し、年間1,800を超える国際会議を開催しています。

詳しくは http://www.ieee.org をご覧ください。


詳細はこちら
プレスリリース提供元:@Press
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、米イルミナの遺伝子解析機器を禁輸に 関税上乗

ビジネス

アラムコ、25年の配当急減予想 24年は減益

ワールド

ウクライナ議員、米の軍事支援停止を批判 「降伏強要

ワールド

米政権、中国・メキシコ・カナダへの関税措置発動 貿
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Diaries』論争に欠けている「本当の問題」
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 6
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 7
    バンス副大統領の『ヒルビリー・エレジー』が禁書に…
  • 8
    米ウクライナ首脳会談「決裂」...米国内の反応 「ト…
  • 9
    世界最低の韓国の出生率が、過去9年間で初めて「上昇…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 5
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 6
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 7
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 8
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 9
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 10
    東京の男子高校生と地方の女子の間のとてつもない教…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中