コラム

謎のステルス増税「森林税」がやっぱり道理に合わない理由

2024年06月11日(火)15時39分

あらゆる手管で国民から絞り出す… Cemile Bingol/iStock

<今年6月から、復興税に事実上代わる形で「森林環境税」が国民から徴収されている。しかし本当に復興や森林保護などに税金が使われるかは怪しい、と芸人のパックンは指摘します>

あなたの一番好きな「税」って、何ですか? 所得税が好き? それとも消費税派? 住民税を推し活中かな?  僕は......有名税だね。

バカバカしい!  税金はとても大事。だが、その使途である公的サービスの恩恵をありがたがっても、基本的に税金は国民に好まれない。増税ももちろん基本、嫌がられるものだ。できるなら有名税もなくしていただきたい。

しかし、政府に打つ手はある! 国民が「喜んで」までいかなくても「抵抗せず」に増税を受け入れさせる方法がある。それは国民が支持する事業に結びつけることだ。

その代表例が2011年の東日本大震災後に導入された新しい税。誰もが応援したい被災地の復興を目的として設けられたものだ。名前も「復興税(復興特別税)」と、分かりやすい。2013年から所得税率が2.1%上がり、住民税も13年度から一人年間1000円が追加で徴収され、法人税も12~13年度に増税された大胆な政策だが、反対の声の音量は当時も今も小さい。政府からみれば大成功だ。

低所得者に厳しいステルス増税

その復興税は昨年度、住民税追加分の期限が切れた。しかし1000円分減税かと思いきや、今月から同じ一人1000円の新しい税が導入されてしまった。その名は「森林環境税」。また国民が応援したくなりそうな、反対されなさそうなテーマで、どう見ても政府は「あの感動をもう一度!」と、復興税の成功を再現しようとしているようだ。

復興と同様に、森林や環境を保護する公共事業はとても大事だし、公金を使うべきだ。それは当然だが、この特別税がないと財源が確保できないなんてナンセンスだ。現に、この特別税なしに森林環境譲与税というものが2019年から国が自治体に給付されているのだ。今月からその譲与税の財源に、われわれの1000円を充てるとのこと。

どうしても増税が必要だったら、普通に所得税や法人税などを上げればよいはず。そうしないで、所得が低い人にこそ重い負担となる、逆進的な定額式にしたのはなぜか? やはり、復興税の枠をしれっとすげ替えて、増税に気づかせないためだろう。政府が一生懸命アピールしている定額減税と全く違う扱いだ。ゆえに、巷で「ステルス増税」と非難されているわけだ。

しかし、この件に僕の増税センサーはすぐ反応した。まず「○○税」と名前がつけられた時点で僕は疑いたくなる。特別な名前がついていても、お金に色はつかない。

「森林環境」という名目で国が収税しても、そして同じ名目で都道府県に交付されたとしても、そのお金が必ずしも森林や環境の保護に使われる保証はない。復興税も3.11で被災していない地域も含めて全国に交付され、もちろん復興以外の目的にも使われた。

それもそうだ。どんな名目でお金をもらっても、それがその地域のニーズに基づき優先度の高い順に使われるのは当然。たとえ森林や環境保護を積極的にやっている地域でも、新しい財源が増えたからその予算が増えるとは限らない。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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