コラム

トランプ大統領のシリア攻撃は「目くらまし作戦」?

2018年04月17日(火)18時40分

シリア攻撃をトランプが決断した本当の理由は? Yuri Gripas-REUTERS

<普段の言動や政権運営から、シリアへの空爆が正しい判断だとしても間違って見えてしまうのが残念>

ドナルド・トランプ米大統領はシリア攻撃を「化学兵器の今後の使用を抑止するための制裁だ」と言っているが、攻撃に踏み切った本当の理由は?

その問いに対しては、こんな答えが多い。
 
トランプ大統領は国内問題で大ピンチだ!

▼2016年大統領選におけるロシアの干渉を調べる特別捜査は佳境を迎えている。トランプ陣営は共謀疑惑を持たれ、関係者数人は起訴されている。既に有罪判決を食らっている人もいる。

▼その捜査のきっかけとなったのがコミー元FBI長官の解任だが、コミー執筆の暴露本が発売される(4月17日)寸前にシリア攻撃を開始した。

▼ポルノ女優のストーミー・ダニエルズ(本名ステファニー・クリフォード)は、大統領との不倫関係について話さないように13万ドルもの口止め料を得たにもかかわらず、その契約は無効だと主張し、全国放送で赤裸々に語った。さらに、大統領と個人弁護士を相手に裁判を起こしている。

▼トランプの個人弁護士であるマイケル・コーエンの事務所がFBI捜査班に家宅捜査された。コーエンは長年の間、公私にわたるさまざまな案件においてトランプを支えてきたフィクサーなので、トランプはロシア関連の捜査よりもこの捜査を脅威に感じているといわれている。

▼公金の個人使用、インサイダー取引、縁故主義、家庭内暴力などなど、閣僚も含めてトランプの側近は不祥事が次から次へと発覚している。

▼その不祥事発覚のため、またはトランプの気分転換のため、閣僚も含めて側近の辞任・解任が相次いでいる。

こんなカオス状況で中間選挙を迎えるトランプ大統領だが、きっと意識しているのは昨年のある出来事。今からほぼ1年前に、今回と同じように化学兵器を使用したとされるシリアへのミサイル攻撃を、トランプの指示の下で米軍が実行した。すると、就任から下がりっぱなしだったトランプの支持率が久しぶりに跳ね上がったのだ。 

よっしゃ! 山積するスキャンダルや国内問題から国民の目をそらし、支持率回復を遂げるぞ!っと、今回の攻撃を決めたのだ。

悪いが、こんな答えに説得力を感じてしまうのは僕だけではないでしょう。冷静な議論を心がけたいが、ついつい過熱してしまう。
 
だって、「化学兵器を使うと高くつくぞ!」というメッセージをシリアに届けるため、複数の倉庫や施設を爆破したとされているが、巡航ミサイルは一本1億円以上かかるもの。前回より国内の政治状況が倍厳しいためか、今回は前回の倍近くの105発のミサイルを打ち込んでいる。単純計算で攻撃のコストも軽く100億円を超える。100億円あったらシリアで倉庫を何個建てられるかな......。結局、こちらが高くついているのではないか。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 9
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 10
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story