コラム

「トランプお友達作戦」で安倍さん大丈夫?

2017年11月04日(土)17時00分

ピュー・リサーチセンターが6月に37カ国で行った調査によると、トランプを信頼しているとの回答は平均でたったの22%。バラク・オバマ前大統領は64%だったので、反米ではなく、反トランプ感情の表れだと思われる。プーチンや中国の習近平も何かと懸念される指導者だが、その2人よりも5~6ポイント低い酷評だ。

アメリカ国内でも、トランプの支持率は驚異的な低水準になっている。ギャラップ社の10月下旬の調べでは33%にとどまり、ウォーターゲート事件後のリチャード・ニクソン、イラク戦争後のジョージ・W・ブッシュと同じくらいの嫌われっぷりだ。お隣の韓国でも「金正恩よりトランプが怖い」と思っている国民が多いという。日本は世界的な体裁と近所付き合いの重要性を念頭に入れ、トランプと取るべき距離を計算しないといけないのではないか。

もちろん、その国益そろばんをはじきながら、海外での評判を犠牲にしてでも仲良くする価値はあると計算するのは分かる。今回の訪日中に築かれた関係のおかげで、今後有利な条件や約束を引き出せることは十分考えられるだろう。トランプは孤立しているからこそ、この友好関係を大事にするはず。でも、そこにもリスクが生じる。

というのはせっかく仲良くして、日本の望むとおりの約束をトランプから引き出せたとしても、実現しない可能性が大きい。その心配材料は主に3つある――本人、議会、行政だ。

就任以降の法案成立はゼロ

まずは本人。忘れてはならないが、トランプはウソつきである。政治家の主張の真偽を検証するサイト「ポリティファクト(PolitiFact)」が取り上げたトランプの発言は、「ほとんどウソ」「ウソ」「真っ赤なウソ」で7割近く。6月にニューヨーク・タイムズが、トランプが就任してからのウソを社説にまとめたが、5カ月分だけなのに全面記事になった。

ワシントン・ポストがまとめた数字では、就任100日で492回のウソ、つまり平均で1日5回近くもウソをついている。ウソがご飯だったら、「三度の食事とおやつと夜食」という生活になる。まさに、お腹いっぱいだ。

2つ目は議会。トランプは、(ウソじゃなくて)本当にやりたいことがほとんどできていない。就任から10カ月以上たつが、成立させた大きな法案は今まで合計......ゼロ。共和党の重鎮と喧嘩したり、政権がリーダーシップを取って法案をまとめられないこともあるが、与党が両院を支配しながら、大統領のお気に入りの政策を1つも立法できていない。

オバマケア(医療保険制度改革)の廃止もできていない。税制の見直しもできていない。共和・民主両党が賛成するはずのインフラ整備関連法も通せていない。「短期間でこんなに政策を達成できた政権はない」とトランプは自慢しているが、ポリティファクトはこれも「ウソ」と断定する。

そして最後に行政。トランプは行政の基礎知識がない上、思い付きでしゃべっているとみられる。しかもトランプの発言と内閣の発言が相反したりするし、トランプの発言とトランプの発言でさえよく矛盾している。そのため、もはや政府の職員でさえも大統領の言うことを真に受けていないという。

CNBCなどが報じているように、「トランスジェンダーの入隊を禁じる」と言っても、軍の方針は何も変わらない。「容疑者をもっと手荒く扱いましょう」と呼びかけても、警察は対応を変えない。「オピオイド乱用危機は国家の緊急事態だ。その対策に多くの時間と努力と金をかける」と言っても、時間も努力も金もかけられず、何も変わらない。明らかに部下がボスの言うことを聞いていない。

ましてや、トランプがやりたいことを阻止しようとする職員も多いという。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国成長率、5%未満でも容認できる 質を重視=人民

ビジネス

ノルウェーSWF、イスラエル通信企業株を売却 倫理

ワールド

アングル:ルーマニア大統領選、親ロ極右候補躍進でT

ビジネス

戒厳令騒動で「コリアディスカウント」一段と、韓国投
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 5
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「IQ(知能指数)が高い国」はど…
  • 7
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計…
  • 8
    健康を保つための「食べ物」や「食べ方」はあります…
  • 9
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求…
  • 10
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 5
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 6
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 7
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 10
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story