コラム

世界を引っ張るリーダーが日本で生まれづらい理由

2017年10月20日(金)16時40分

日本の選挙制度は与党に有利過ぎる? Kim Kyung Hoon-REUTERS

<世界を牽引する偉大なリーダーが日本から登場しないのは、空気を読み過ぎる社会のせい? 実は日本では、リーダーシップを誰も期待してないのかも>

「World's Greatest Leaders(世界で最も偉大なリーダーたち)」と題して、フォーチュン誌が世界のリーダートップ50を発表している。昨年は日本人が1人も載っていなかったが、今年はなんと、安倍晋三首相やソフトバンクグループの孫正義会長兼社長、小池百合子都知事が見事に......漏れている。38位にBTグループの社長、吉田春乃さんが入っているが、日本企業の経営者や政治家、文学者などは誰もいない。

なんでなんだろう。原因の一つは間違いなく審査員のバイアス。本当の求心力や影響力よりも、欧米に集中している読者の間の人気度やキャッチーさも絶対に審査条件に入っているだろう。少なくとも孫さんは、46位にランクインしているチャンス・ザ・ラッパーよりリーダーシップを発揮しているはず。チャンスをつかめず、ソンしているね、とか、何かギャグができそうだけど、そんな暇、ない。これは重要な問題だ!
 
バイアスがあったとしても、選ばれたのは何も欧米のメンバーだけではない。中国からも台湾からもインドからもドイツからも、また去年は「カナダ」という、聞いたこともないよう小国からも首相がランクインしている。でも、世界3位の経済大国である日本からは出ていない。フォーチュン誌は日本での売れ行きがあまりよろしくないのかな?

そういう問題でもないはずだ。審査委員の偏りだけで片付けてはならない。他国に比べて、日本から世界を変えるようなリーダーがあまり誕生していないのは事実。その実態をちゃんと見つめて、原因と対策を検証しないと。みんなの見解も知りたいが、とりあえず僕の分析を述べさせてもらおう。僕の連載だからね。

「出る杭は打たれる」社会

まず、社会的な要因が大きいはず。リーダーになるには、人前に立つ勇気と図々しさが必要だ。「遠慮のかたまり」や「出る杭は打たれる」または「空気を読む」などの慣用表現からもうかがえるように、日本はやりたいことがあっても、前に出ず、我慢して和を乱さないように気を遣うのが美徳。

でも、リーダーは遠慮でかたまらない。 打たれても前に出て、空気を読みながらでもその空気を変えていくような存在だ。日本の社会や教育の下では生まれづらいかもしれない(ちなみに、遠慮のかたまりはアメリカの食卓であまりみない現象。最後にピザのひとかけらが残ったりしない。最初に遠慮のかけらもないから)。

日本は一般の人だけでなく、著名人もいろいろ控えめにする社会だ。フォーチュン誌のランキングに入っている世界のリーダーは全員が権力者ではない。政治家やビジネスパーソンのほかに、スポーツ選手、芸能人、活動家、文学者なども入っている。共通点としては各分野で活躍しながらも、リスクを負って世間に意見を発信し、自らが手本になるような行動を見せている。日本では著名人が政治の話をしたり、社会問題に取り組んだりすると本業に悪影響が及ぶことが多い。正直、僕も当然それを意識し、カナダぐらいしかいじらないようにしている。

でも、政治家ならもちろん政治的な発言は自由にできるはず。なのに、日本から世界レベルの政治家もなかなか出てこない。その原因は政界の特徴にあると考える。以前にも取り上げたが、 日本の選挙や政治は少し特殊だ。あまり意識されないけど、その制度から意外な産物が出ていると思う。

まず、選挙期間が短いため、知名度のある政党や現役議員にとっては有利。政権交代の伝統がほとんどないため、野党の存在が薄い。さらに、与党内の言論統制ができているため議論の幅が狭い。その結果、国民の選択が限られているだけではなく、幅広い思想の政治家の丁々発止でリーダーシップが鍛えられるような状況になっていないと感じる。激しい議論で切磋琢磨するからこそ、一流のリーダーが抜きん出てくるが、この状況では生まれづらいかもしれない。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story