コラム

トランプの「ウソ」に期待する危険

2016年11月30日(水)13時00分

 昨今、丸腰の黒人が大勢警察に殺されていることが社会問題になっている。それなのに、黒人に対する差別がきつ過ぎて地方裁判官にもなれなかったJeff Simmonsを司法局長に任命した。

 民族や人種の分裂を融合させるのが急務なのに、Alt-Right(白人至上主義のアメリカ版ネトウヨ)の中心であるニュースサイトのCEO、Stephan Bannonを首席戦略官に抜擢した。

 イスラム圏との付き合いが外交上の最重要課題となっているのに、「イスラム教は悪性の癌」と主張するネオコンのMichael Flynnを国家安全保障問題担当大統領補佐官に選んだ。

 人選も非常識っぽい。

 では、日本人が一番気になる外交をみよう。選挙中、トランプは「金正恩と会おう!」や「プーチン好き!」といったり、アジアから米軍の撤退や日本、韓国の核保有化をほのめかしたりして、非常識っぽかったが、当選後はどうかな?

【参考記事】バルト3国発、第3次大戦を画策するプーチン──その時トランプは

 まず、選挙後、最初に電話で対談した他国のリーダーはエジプトの大統領だった。イギリスやドイツを差し置いて、だ。
 
 安倍首相との非正式な首脳会談もかなり異例な出来事。一番忙しいときに90分を割いてカジュアルに話し合うことは滅多にない。ネッ友のオフ会じゃないから。安倍さんは上手くトランプの無知さを利用して対談を仕掛けたと、僕は評価しているが、トランプにとっては失敗だ。他の首脳達も同じ待遇を期待しちゃうし、大統領との対談は外交の大事なカード。安易に使ってはいけないというのが常識。

 まだ小さなことしかやっていないが、それでも当選後も外交においては非常識っぽい。

 果たしてトランプは常識人なのか、非常識人なのか。これは冒頭の英語クイズよりはるかに難しい問題だ。いまのところ、僕はなんともいえない。というか、選挙の結果も見事に読み間違え、危うくテリー伊藤さんに頭を丸坊主にされそうになった僕は、もうトランプに関しては何も断言しないことにする。

 極端な公約を破り、国益を追求する"常識人"になればありがたいが、非常識人のままになる可能性は十分ある。とにかく、念のためにであっても、そんな非常識なトランプに僕ら地球人はみんな備えておくべきだと思う。

<追伸>
 そういえば、僕は「トランプが当選したら日本に亡命する」と、以前ここで公言したことが気になっている方もいるかもしれない。実は、選挙の翌日から本気で帰化する手続きを調べてみた。しかし、アメリカには「出口税」というものがあって、なんと国籍を放棄する場合、資産の20%を国に納めなきゃならないのだ。つまり、トランプに呆れて国籍を捨てしまったら、僕が持っている全財産の20%をトランプに渡すことになる。そんなの嫌だ!

 残念ながら、ケチな僕は亡命しないとに決めた。すみませんね。

 まあ、そもそも、あれもcampaign promiseだしね。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

関税でインフレ長期化の恐れ、輸入品以外も=クーグラ

ワールド

イラン核開発巡る新たな合意不成立なら軍事衝突「ほぼ

ビジネス

米自動車関税、年6000億ドル相当対象 全てのコン

ビジネス

米、石油・ガス輸入は新たな関税から除外=ホワイトハ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story