最新記事

安全保障

バルト3国発、第3次大戦を画策するプーチン──その時トランプは

2016年11月28日(月)19時30分
ポール・ミラー(米国防大学准教授─安全保障論)

11月18日、首都リガで独立記念日の行進を行うラトビア軍 Ints Kalnins-REUTERS

<アメリカの次期大統領は「狂人」、西側の結束はブレグジットや難民問題でボロボロ、プーチンにとって、第3次大戦の恐怖を盾に領土を広げる格好のチャンスがやってきた>

 4年前、私は2014年のロシアのクリミア侵攻を予想し、的中させた。次の予言はこれだ──ロシアの次の標的はバルト3国で、2年以内には軍事介入の口実を作って占領し、それはアメリカの次期大統領ドナルド・トランプに究極の選択を迫る。バルト3国を救うために第3次大戦のリスクを冒すのか。

 ロシアのウラジーミル・プーチン大統領ははっきりした目標と大きな戦略をもっている。だが、リアリストを標榜する多くの国際政治学者にはそれが見えていない。プーチンを突き動かしているのは合理的で防衛的な動機だという者もいる。NATO(大西洋条約機構)の東方拡大を脅威と感じ、それを押し返そうとしているだけだというのだ。その意味では、「ウクライナ危機も(ウクライナを西側に引き入れようとすることでロシアを追い詰めた)西側の責任だ」と、シカゴ大学の政治学者ジョン・ミーアシャイマーは言う。

【参考記事】バルト海に迫る新たな冷戦

 大半の学問的リアリストの分析と同じく、これは馬鹿げた理屈だ。プーチンを動かしているのは自己利益に基づく冷徹な計算などでははない。そもそも人間はそんなことでは動かないからだ。われわれを動かしているのは、意識の深層にある前提条件や信念によって定義された自己利益だ。イデオロギーや信仰といってもいいだろう。

【参考記事】もし第3次世界大戦が起こったら

 プーチンはロシア周辺国に対する覇権を握ることが安全保障に不可欠だと信じている。それがロシアという国家とその歴史的運命についてのプーチンの信念だからだ。プーチンやその側近は、単なる愛国主義者ではない。クレムリンは宗教と運命論とメシア信仰に性格づけられた特殊な形のロシア愛国主義に動かされているようだ。

ロシアは合理的ではない

 ロシアが真に合理的なら、NATOとEUの東方拡大を脅威とは見なさない。なぜなら自由秩序はより開放的で包摂的で、ロシアの安全保障と繁栄を脅かすより助けるものだから。だが、ロシアの宗教的愛国主義を通じて物を見るプーチンと他のロシア人にとって、西側はその堕落ぶりとグローバリズムの故に脅威なのだ。

【参考記事】ロシアが東欧の飛び地カリーニングラードに核ミサイル配備?

 ロシアの見方では、NATOはヨーロッパにおける自由秩序の穏健な守り手ではなく、堕落した西側の文化を広める敵の手先で、偉大なロシアに対する挑戦だ。プーチンの大戦略が必要としているのはNATOの解体だ。具体的には、彼はNATO加盟国の集団自衛権の行使を定めた北大西洋条約第5条を形骸化しなくてはならない。

【参考記事】ロシアがクリミアの次に狙うバルト3国

 プーチンはすでにNATOの信用に傷をつけることに成功している。彼の近年の2つの標的、ジョージア(旧グルジア)とウクライナはNATOには加盟していない。だが2008年には公に加盟申請手続きを始めると発表している。ロシアは両国がNATOに近づくいかなる動きも妨害し、その後に攻撃した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:米関税「見直し」求め閣僚協議へ、先陣切る日本

ビジネス

米エヌビディア、H20輸出制限を一部中国顧客に伝え

ビジネス

中国が通商交渉官を交代、元WTO大使起用 米中摩擦

ビジネス

日銀、5月20ー21日に債券市場参加者会合 中間評
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 2
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ印がある」説が話題...「インディゴチルドレン?」
  • 3
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 4
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 5
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 6
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    「世界で最も嫌われている国」ランキングを発表...日…
  • 10
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    投資の神様ウォーレン・バフェットが世界株安に勝っ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    まもなく日本を襲う「身寄りのない高齢者」の爆発的…
  • 9
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 10
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 7
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中