コラム

トランプの「ウソ」に期待する危険

2016年11月30日(水)13時00分

 公約だったとしても、それを破って姿勢を和らげる「常識人」なのか、それとも公約をしっかり守り、今まで通りの過激な姿勢を保つ「非常識人」なのか、推測するなら当選してからの行動を見てみるしかない。

 いくつかの問題においては、選挙が終わってから中道に歩み寄る傾向が見える。国境の壁に関しては「部分的にフェンスでもいい」。不法移民に関しては「とりあえず犯罪歴のある人から強制送還だ」と、実はオバマ政権と同じ方針をとるという。また、イスラム教徒の全面入国禁止案に至っては、取り下げただけではない。以前は「イスラム教徒の登録データベースを作るべき」と発言していたというのに、今は「そんなこと、言っていないよ」と否定している。録音テープがあるのに、「言っていないよ」と言い張る。

 完璧な証拠があるのに、その現実を否定するという非常識な行為は前から変わらないが、少なくともいくつかのcampaign promiseを曲げ、"常識"に近づいているように見える。さらに「イスラム国の創立者だ」と言っていたオバマ大統領と仲良くしているし、「投獄する」と脅していたヒラリー・クリントンの事を「いい人だ」と話している。

 トランプが、選挙中と当選後とではまるで別人のようだと感じて喜んでいる人は多い。「二面性、最高!」とか「二枚舌万歳!」と言っているみたいなものだ。不思議だが、それが今や希望の種になっている。(正直、僕も常識人に変身することを期待している...とは言わないが、祈ってはいる。藁をもつかむ思いで・・・)

 しかし「常識人」に近づいた気配もあるが、「CIAによる拷問を再開する」、「温暖化対策を取りやめる」、「保護貿易を徹底する」等々、一部の公約を守ろうとしている姿勢も見せている。つまり、ものによってcampaign promiseを破る"常識"がないかもしれない。

 さらに、次期大統領の非常識っぷりは他の局面からも垣間見えている。

【参考記事】トランプ政権はキューバと再び断交するのか?

 新政権移行チームは16人中、4人がトランプファミリーだ。就任後も連邦法で禁じられているのに、新政権の上位ポストに義理の息子を任命しようとしている。

 さらに、しばらく政府のホームページに、自分の不動産の物件や奥さんの時計とジュエリーブランドを(テレビショッピングのチャンネル名付きで)紹介した。大統領の地位と国民の血税で自社ブランドの宣伝なんてしないのが「常識」。

 また、任期中も会社は大統領が筆頭株主の家族経営のままにするつもりらしい。本来は、大統領の判断に影響がないように、持ち株などの資産を全部blind trustに預けて、「国益より自己利益を優先している」と思われないようにするのが常識。

 トランプは当選後も公私混同に対する考え方も非常識っぽい。

 では、内閣や補佐官の任命はどうだろうか?

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、中距離弾道ミサイル発射と米当局者 ウクライ

ワールド

南ア中銀、0.25%利下げ決定 世界経済厳しく見通

ワールド

米、ICCのイスラエル首相らへの逮捕状を「根本的に

ビジネス

ユーロ圏消費者信頼感指数、11月はマイナス13.7
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story