コラム

破壊王! トランプの「政治テロ」が促すアメリカの変革

2016年04月28日(木)16時00分

型破りな姿勢を貫いて“非常識”な政策を提案し続けるトランプは、候補として失格であっても「ディベートメーカー」としては貴重な存在 Randall Hill-REUTERS

 ご存知の通り、僕はドナルド・トランプ大統領候補をちっとも応援していない

 不適切な発言でアメリカのイメージを下げたり、人種間の溝を広げたり、候補を選ぶプロセスをぶっ壊しちゃったり・・・そんな彼を批判したいと思うときが山ほどある。しかし、こんな僕でもトランプを、2点においては高く評価している。

 1つは、彼のおかげでコメンテーターなどを始め、僕の仕事が増えていること。実にありがたい人! こちらは僕が得する話だ。

 もう1つはみんなの得になる話。それは、型破りな候補の姿勢を貫いて、"非常識"な政策を大きな声で提案し続けていることだ。

 例えば「トランスジェンダー(性同一性障害など)の方が身体の性別と関係なく、気持ちが男性なら男性用のトイレを、女性なら女性用のトイレを使えるようにするべき」という先日の主張。これは先進派閥のリベラルな人にとっては常識的な思想だが、一般的に保守主義の立場をとる共和党の大統領トップ候補としてはとんでもなく非常識なものだ。

 同様に、富裕層への増税、貧困者の所得税廃止、関税の引き上げ、アメリカの中近東撤退、皆保険の設置等々の案は長年、共和党内ではご法度な提起だが、トランプはそんなことは気にしない。

【参考記事】パックンが斬る、トランプ現象の行方【前編、人気の理由】

 また党内の伝統的なスタンスに逆らうだけではない。日本や韓国への核保有化を勧めたり日米安保関係の見直しなどの提議は、共和党のみならず、ほとんどの政治家や専門家から見て非常識な発想だが、トランプはまったくお構いなし。さすが非常識人!

【参考記事】トランプの暴言に日本は振り回されるな!

 差し障りのない、ありふれた主張を繰り返す典型的な大統領候補と違って、トランプは、(極端かつ非現実的であっても)とにかく新奇な策を世界に打ち出している。固定概念や暗黙の了解などにとらわれず、なんでも自由に発案するのはとても大事なことだ。なぜなら、それを取り上げる番組で僕の仕事が増えるから! ごめん、自己利益に戻った。

 もとい、こういった彼の極端な発言は国民の議論を掻き立てている。恐怖感や人種差別を煽るのは許しがたいし、大統領候補はちゃんと熟慮した上で政策立案を進めてほしい。ただ、候補として失格であっても「ディベートメーカー」としては貴重な存在だ。

 実のところ、トランプの暴走で一番困っているのは共和党。例えば「安全保障優先、タカ派の党」というイメージをがんばって築き上げてきたところで、トランプはアジア撤退やNATOの見直しなど、孤立主義に近い提案を連発している。しかもそれが多くの一般党員からも支持される事態となっている。世界中の同盟国には不安を抱かせているが、党内では方向変換も含めた議論が始まった。

【参考記事】トランプ勝利で深まる、共和党「崩壊の危機」

 一方、「メキシコとの間に壁を建てること」や「子供を中絶した女性を罰すること」、「イスラム教徒の入国を禁ずること」などの主張は、共和党の方向性に逆らってはいない。多くの人に不快感を与える極端な提案であるものの、どれもが党の政治理念に基づいている。中絶反対、移民反対、キリスト教至上主義の共和党の本来のレトリックの延長線にあるだけ。同じ方向性ではあるが、しかし、どこまでやるのか?と、また議論を呼んでいる。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがガザ空爆、48時間で120人殺害 パレ

ワールド

大統領への「殺し屋雇った」、フィリピン副大統領発言

ワールド

米農務長官にロリンズ氏、保守系シンクタンク所長

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 5
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 8
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story