コラム

破壊王! トランプの「政治テロ」が促すアメリカの変革

2016年04月28日(木)16時00分

 オーバーな発言だからこそ、議論を起こす効果がある。多くの物まね芸人がトランプのパロディーに挑戦しているが、最初からほとんどの発言にデフォルメがかかっているし、本人がそもそもパロディーの作品のようなので、実物を上回る芸人はなかなか出てこない。

 でも、面白いだけではない。トランプのおかげで、共和党のあり方を再考する貴重なきっかけができている。共和党の体制が乱れているのは彼のせいだ。党が分裂しても、破滅しても彼のせいにされるだろう。でも、党がちゃんと機能していないのは、ずっと昔からの話。トランプ現象自体がその求心力の低さを物語っている。

 今回の大乱闘の末、魅力的な党に生まれ変わることができるなら、それもトランプのおかげでしょう。一連のトランプ氏の暴走で一番得するのも、実は共和党かもしれない。

 いや、一番得するのはヒラリー・クリントンだな。僕も得してるけど。

 そして、日本の皆さんにとっても得することがあるかもしれない。核保有化が実現したり、日米安保条約を結び直したりするからというわけではない。これらはおそらく実現しないはず。でも、選択肢を思い出させてくれたことは大きい。色々な可能性を持って議論すれば、「使えやしない核兵器を持つ意味のなさ」や「防衛費を教育や経済対策、福利厚生などに回せる状況のありがたさ」などに気づくはず。

 アメリカ人も「東アジアの軍事競争を避ける価値」や「アジアに自国基地を安く持つ利点」について再認識できるといい。最終的には、議論の末にきっと現状に近いものを望むような結論に辿り着くと思うが、バランスのとれた同盟関係の大切さを、お互いにもう一度確認できることは十分有意義だ。

 例えるなら、「結婚しているから夫婦だ」ではなく「夫婦でありたいから結婚しているのだ」というような意識改革ができるかもしれない。この違いの大きさを確認したい方は、ぜひ自分の配偶者に一度「離婚してみようか」と言ってみてください。きっと昨日までの家庭内平和の有難さに気づかせてもらえるはず。夫婦間戦争が勃発しないことを祈りつつの提案だが。。。

 国も党も個人も、「現状はこうだから」とか、「常識だからとか」ではなく、議論と熟考に基づいた正しい判断から方向性を決めていただきたい。どうしても「思想の惰性」的なものが生じるので、常識を定期的に再審議する必要はあるだろう。そのきっかけを作るためには、非常識な発案でもとても役に立つ。そういう意味では、トランプは本当にいい仕事をしているといえよう。

 だからと言って、その彼を大統領として選ぶのは非常識すぎるだろうが。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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