コラム

シッパイがイッパイ、アメリカの中近東政策

2015年12月18日(金)17時30分

 1つ目は「全面的な軍事介入」。これはイラクにおける活動が代表的。空爆や地上戦でフセイン政権を倒した後、内戦を治める為にさらに兵力を増した。世界史上最強の軍事力をふるってイラクに平和を贈ろうとした。ピーク時では17万人もの米兵を派遣し、少なくとも合計2兆ドルもの予算をかけた。しかし、結果は......アメリカ人は4000人以上、イラク人は10万人以上の命を落とすことになった。それでも平和なイラクはまだ夢のままだ。

 イラク戦の理想の結末として"Iraqis will stand up as we stand down."と言われていた。訓練や装備でイラク軍を支援すれば、イラク人がstand up(立ち上がる)と同時に米軍はstand down(撤退する)という計画だ。しかし理想に反して、米軍がいなくなった瞬間からISISが台頭し、イラク内で堂々と活動をし始めた。そのときイラク軍はstand upやstand downではなく、ただstand around(傍観)していたのだ。(ちなみに、このオチは英語で言ったら結構ウケるはず。試してみてください!)

 2つ目のアプローチは「限定的な軍事介入」。兵士を派遣せず、空爆や飛行禁止区域を設定し、訓練や装備、情報などの提供だけで参戦するもので、これはリビアにおいての政策に代表されるやり方。東日本大震災のタイミングと重なり、日本ではあまり注目されていなかったが2011年3月から7カ月に渡って、アメリカやイギリスなど連合国の空軍がカダフィ政権と戦っていた。これは大成功とされた。リビア空軍が壊滅し、飛行禁止区域の設定ができた。連合軍の損失もとても少なかった。イギリス人のパイロットが一人亡くなっただけ。しかも交通事故で。しかもイタリアで。その人、カウントする必要あるかな......。

 でも「成功した」この作戦の後、リビアの情勢はガタガタと崩れた。カダフィ政権が倒れると内戦はますます激しくなった。アメリカ大使館の爆破事件で大使が殺されたり、武装勢力が増えたり、ISISやアルカイダ系列の過激派組織が台頭したり、難民が大勢出たり......と、好ましくない展開ばかりだ。「成功は失敗のもと」っていうやつだね。

 3つ目の政策は「ピンポイントな軍事介入」とでもいえよう。限定的な空爆や訓練、情報、装備の提供を行うが、攻撃対象は政府ではなく、テロ組織だけに絞る。シリアでの作戦はこれにあたる。ロシアがバックについているシリア政府との直接対戦を避けながら、「穏健派の反政府勢力」だけを支援する方針を貫いてきた。しかしISISも依然としてのさばっているし、何十万人もの犠牲者、何百万人もの難民が出ている。さらにISISのメンバーがパリで同時テロを、ISISの同志と名乗った2人が米国で乱射事件を起こした。オバマ大統領はISISを弱体化させ、破滅させるといっていたのに、ますます世界中に力を及ぼしているように見える。大失敗だ。

 あっ。大失敗って言っちゃった!

 そのとおり、上記の3つのやり方は、損失の程度が違うといえども、どれも失敗だ。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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