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【大江千里コラム】ハッピーホリデーにエリック3兄弟がやって来る
自宅に飾られたクリスマスツリー COURTESY SENRI OE
<ニューヨーク在住のジャズピアニスト・大江千里氏によるエッセイコラム。第2回となる今回は、楽しくてちょっと忙しいニューヨーカーのクリスマスをお届けします>
11月末の感謝祭が終わると、人の歩くスピードががぜん速くなる。気後れしてふと立ち止まると頭上には夏前と変わらぬ空の青さ。時は矢のごとく、いつの間にか「ハッピーホリデー」を交わし合う季節になった。
この時期のニューヨーカーはギフトを買うのに忙しい。歩く速度を一向に緩めず、どんな隙間さえも擦り抜けて先を急ぐ。ロックフェラーセンター前にはスケートリンクが現れ、メールボックスにはグリーティングカードが次々届く。バーのカウンターでは、初めて会った者同士が「今年の冬は短いんだってね」と根拠のないおしゃべりに花を咲かせる。
西海岸でコンサートを終え10日ぶりにブルックリンに戻ると、去年ツリーを買った公園にテントが建ち始めているのが目に留まった。今年もクリスマスがやって来る。「組み立て方、分かんないんだけど配達の人やってくれるかな」「安心して! 責任持って組み立てるわ」
昨年の今頃、そんな言葉に安心して購入し、いざ届けられると「俺じゃできない」といかにもバイトらしき配達夫はつれない返事。仕方なくうちの大家に連絡すると、わが家のハンディーマン(なんでも屋)、エリック3兄弟がやって来た。
モミの木の根っこをネジで留め、みるみるうちにクリスマスツリーが出来上がる。作業のほとんどを担当するのは末っ子のエリックだ。兄貴たちはその間、何をやっているかって? 大音量でサルサを聞きながら楽しそうにスペイン語でおしゃべり。
なぜ3人も必要なのかが分からないが、決まってこのメンツでやって来る。「助かった。ありがとう」と僕の言葉に背中を押されて帰っていく3兄弟の足取りが少しだけ重い。あ、チップだ。この時期は特に大事。
「ちょっと待って!」。大声で引き止めてそれぞれに20ドルずつ渡すと、胸に手を当て感謝の念を表して丁寧にお札をポケットにしまう3人。
働いたのは末っ子だけだけど、そこはハッピーホリデーなのだ。それに兄弟のその姿を年末に見ると、心のツリーにイルミネーションが灯る。
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