生態系を再現するような農場を造る『ビッグ・リトル・ファーム 』
数年後、その結果が見え始める。土の色がカーキ色からチョコレート色に変わり、ミミズやヤスデ、クモなどが現れ、花粉媒介昆虫や鳥が姿を見せるようになった。彼は、その庭が農場のミニチュア版であることに気づき、自然と共に働くという忘れかけた道へと導かれ、様々な環境保全型農業を試みる農場への旅に出る。
モントゴメリーが一般人よりも強い衝撃を受けたのは、地質学者として表土の荒廃の歴史を調べ、また実際に農地の破壊を目にしてきたからだ。ローマ帝国やマヤ、イースター島など、偉大な文明は表土を荒廃させた末に困窮し、滅亡していった。そして今では、少なくとも世界の耕作地の3分の1を劣化させてしまっている。自然が数センチの肥沃な表土を作るには数百年かかるにもかかわらず、それを数十年で壊す方向に進んでいる。
しかし、環境保全型農業であれば、自然よりも早く土壌を回復させることができる。この農業体系は、三つの単純な原理の上に成り立っている。まず、土壌の攪乱を最小限にする(つまり犂やトラクターで耕さない)。次に、被覆作物を栽培するか作物残渣を残して土壌が常に覆われているようにする。最後に、多様な作物を輪作する。
農地を耕せば、風と雨の浸食に弱くなる。短期的には悪いことではないように見えても、長期的には有機物の分解の加速によって土壌の肥沃度を犠牲にし、化学肥料に頼らざるを得なくなる。しかも有機物分解にともなって二酸化炭素が放出される。1980年の時点で、産業革命以降、人類の手で大気中に放出された炭素のおよそ3分の1が世界中で土壌をすき起こしたために出たものだったという。
地面を覆えば、地表のバイオマスと生物多様性が増し、害虫を抑える益虫が増える。輪作は、微生物の多様性を高め、害虫や病原体が土壌生態系で優位になるリスクを下げる。さらに、有畜農業も土壌に好影響を及ぼす。本書では、被覆作物を栽培した不耕起の土壌に家畜の放牧という要素が加わると、水がほとんど流出せず、浸透するようになることを証明する実験なども紹介されている。
目に見えないところで起こっていた大きな変化
本作でジョンとモリー、そしてアランが挑戦しているのは、環境保全型農業であり、こうしたことを踏まえてみると、彼らのひとつひとつの試みや見えない部分で起こっている変化が興味深く思えてくる。
まだ何もわかっていないジョンが最初にやろうとするのは、干ばつで乾いた牧草地に井戸からくみ上げた水を引くことだ。しかし、劣化した土壌は、水流によって瞬く間に浸食され、流されていく。
一方、アランは水やりには関心を示さない。農場ではレモンとアボカドのみの単作農業が行われていたが、彼は、植えるべきでなかったものを取り除くと言って、大量の木を伐採し、堆肥を作る。さらにミミズの糞を集める堆肥施設を作り、その堆肥から液体肥料を作って地面にまく。集められた動物の糞からも堆肥を作る。被覆作物の種をまき、果樹園には75種もの果物を植え、最終的に扱う農産物は200種類以上になる。
農場は、生物多様性を高めていくことで、次第にバランスが生まれる。柑橘類の葉を食い荒らす大量のカタツムリは、カモのエサになり、牛や羊の糞につくウジ虫は鶏のエサになる。果樹がアブラムシに覆われても、いつしか天敵のテントウムシが現れる。
しかし、より重要なのは目に見えないところで起こっている変化だ。有益な微生物の働きによって土壌が変化していたことは、5年目に一帯が457ミリの大雨に見舞われたときに明らかになる。周辺の農場の表土はすべて海へと流されたが、彼らの農場は、大量の雨水を受け止め、無事だった。
人類が直面する差し迫った危機の中で、もっとも認識されずにいる問題
アランに導かれたジョンとモリーが目指したのは、自然界で繰り返しテストされた結果としての生態系を再現することだが、その核になっているのは間違いなく土壌だ。
モントゴメリーは前掲書で、「土壌劣化の問題は、人類が直面する差し迫った危機の中で、もっとも認識されずにいるが、同時にきわめて解決しやすいものでもある」と書いている。劣化は見えないところでゆっくりと進行するので関心を引かないが、彼が旅して目撃した環境保全型農業は決して難しい試みではなかった。だから、「問題は、できるかできないかではなく、やるかやらないかだ」という結論に至る。
本作は、周囲から無謀すぎると言われたジョンとモリーが、8年間でそれを実証するドキュメンタリーと見ることもできるだろう。
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