中国を外に駆り立てるコンプレックス
中国は、急速な経済発展によって自信を隠さなくなってきたが、実際には、米国の経済的圧力は中国経済に大きな打撃を与えることが明らかになってきている。米中の貿易協議では激しい駆け引きが続いたと報道されたが、それだけ米国の圧力が強かったということである。
2,000億ドル相当の米国産品を輸入することになったという報道については、中国外交部は否定したものの、中国は米国からの輸入を大幅に拡大するという譲歩を行わざるを得なかったと考えられる。
中国は、一方的に譲歩を迫られる状況にいつまでも甘んじるつもりはない。米国が中国の経済発展を妨害するという危機感は、中国の急速な軍備増強にもつながっているのだ。そのため、中国が言う「米国の妨害」を排除するために中国がとる行動については、慎重に分析しなければならないのである。
党中央の権威を高める
中国は、「屈辱の百年」という非常に強い被害者意識を持っており、自国には「過去の繁栄を取り戻す」権利があると強く信じている。自らの権利の行使を妨害されていると考えれば、強硬な手段をとる可能性があるということだ。
2018年4月12日、南シナ海で行われた史上最大規模とされる中国海軍の観艦式において、習近平主席が「今日ほど海軍増強が迫られている時期はない」と述べたことからもわかるように、党中央は危機感を持って軍備増強に取り組んでいる。
しかし、同時に、中国共産党は人民解放軍の党中央に対する相対的な権威の低下を図っている。習近平総書記をはじめとする党中央は、「新時代」の中国を領導するために党中央の権威を高める必要性を感じており、その権威に挑戦する可能性のある組織や個人の相対的な権威の低下を図っているのだ。
軍備増強と軍の権威の低下は、矛盾するようにも見える。しかし、中国人民解放軍の2つの方向性は、習近平総書記を始めとする党中央の問題意識を基にしている。
習近平総書記への権力集中を促すその問題意識は、中国が「新時代」に入らざるを得ないことから来ている。この「新時代」は、中国が言う「二つの百年」に関係している。「二つの百年」とは、中国共産党結党100周年の2021年と、中華人民共和国成立100周年の2049年である。
そうすると、2022年に開かれるとされる中国共産党第20回全国代表大会(20大)までに1つ目の「百年」が訪れることになる。鄧小平氏は「小康状態の完成」を指示し、中国共産党は「2020年までに『全面的な小康状態』を完成」するとしている。「偉大な指導者」である鄧小平氏の指示は必ず達成されなければならないことから、2020年に鄧小平氏の指示を達成した後は、新たな目標が必要になる。
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