コラム

中国空母が太平洋に──トランプ大統領の誕生と中国海軍の行動の活発化

2016年12月27日(火)15時30分

大連港に停泊する中国初の空母「遼寧」(2012年) REUTERS

<空母「遼寧」の太平洋進出など、中国海軍が動きを活発化させている。それは就任間近なアメリカの次期大統領ドナルド・トランプが、これまでの大統領のように「人権」や「民主主義」といった理念を振りかざすのではなく、アメリカの実利のためには実力行使も辞さない手強い相手と見ているからだ」

 2016年12月25日、中国海軍の訓練空母「遼寧」が宮古海峡を抜けて、西太平洋に入った。中国海軍のこの行動は、明らかにトランプ氏をけん制したものだ。中国は、自らの懸念が現実のものになるのを恐れているのである。

【参考記事】トランプ-蔡英文電話会談ショック「戦争はこうして始まる」

 空母「遼寧」は、3隻の駆逐艦及び3隻のフリゲート、1隻の補給艦を伴っていた。「遼寧」は、訓練空母であって実戦に用いる能力がないにもかかわらず、空母戦闘群の編成をとって行動したのだ。ファイティング・ポーズを見せているということである。その相手は、もちろん米海軍だ。

 現在、米海軍では、一般的に空母打撃群という呼称が用いられているが、中国メディアでは空母戦闘群と呼称されることが多い。米海軍でも、2006年までは空母戦闘群という呼称を用いていた。呼称を変えたということは、作戦概念を変えたということである。米海軍の空母の運用構想は、すでに2000年代半ばには変わっていたということでもある。一方の中国は、未だ、空母戦闘群を米海軍との海上戦闘の主役と考えているようだ。

敵は太平洋から攻めてくる

 中国海軍は、現在でも、台湾東方海域が米海軍との主戦場になると考えている。中国は、海軍の行動範囲の拡大は戦略的縦深性を確保するためだとする。中国が太平洋側に戦略的縦深性を確保したいと考えるのは、沿岸部に集中する主要都市を攻撃から守るためであるが、敵が太平洋から攻めてくると考えているということでもある。太平洋から中国を攻撃する国、それは米国以外にはない。米国が中国に対して軍事攻撃を行う可能性を懸念しているのだ。

【参考記事】一隻の米イージス艦の出現で進退極まった中国

 そして、中国の考え方によれば、米国が中国に対して軍事力を行使する目的は、中国の経済発展を妨害することである。中国は、国際関係は大国間のゲームであると考えているが、それは、中国が他の大国に搾取されるという強迫観念の表れでもある。そのため、中国は米国およびロシア(以前はソ連)に対抗できるよう、軍事力を増強してきた。

【参考記事】中国はなぜ尖閣で不可解な挑発行動をエスカレートさせるのか

プロフィール

小原凡司

笹川平和財団特任研究員・元駐中国防衛駐在官
1963年生まれ。1985年防衛大学校卒業、1998年筑波大学大学院修士課程修了。駐中国防衛駐在官(海軍武官)、防衛省海上幕僚監部情報班長、海上自衛隊第21航空隊司令などを歴任。安全保障情報を扱う「IHSジェーンズ」のアナリスト・ビジネスデベロップメントマネージャー、東京財団研究員などを経て、2017年6月から現職。近著『曲がり角に立つ中国:トランプ政権と日中関係のゆくえ』(NTT出版、共著者・日本エネルギー経済研究所豊田正和理事長)の他、『何が戦争を止めるのか』(ディスカバー・トゥエンティワン)、『中国の軍事戦略』(東洋経済新報社)、『中国軍の実態 習近平の野望と軍拡の脅威 Wedgeセレクション』(共著、ウェッジ)、『軍事大国・中国の正体』(徳間書店)など著書多数。

筆者の過去記事はこちら

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏

ビジネス

金、3100ドルの大台突破 四半期上昇幅は86年以

ビジネス

NY外為市場・午前=円が対ドルで上昇、相互関税発表

ビジネス

ヘッジファンド、米関税懸念でハイテク株に売り=ゴー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story