コラム

戦うべき敵は欧米コンプレックス

2020年04月08日(水)12時48分

緊急事態宣言の翌日も上野駅はこの人出。ロックダウンが常識の欧米人には驚きの緩さ(4月8日) Issei Kato-REUTERS

<コロナショックで日本のインテリは理性を失ってしまったような右往左往ぶりさ。それも、コロナが英米に上陸してからだ>

戦うべき敵は欧米コンプレックス

今回のコロナ騒動で、世間は大混乱だが、混乱に拍車をかけているのは、いわゆるネット民でもテレビでもなく、通常は冷静で、ネット民やテレビのワイドショーを批判する、インテリと呼ばれる人々だ。

普段は財政破綻の防止のために消費税増税30%と言っている人々でさえ、コロナショックのためには、無制限に金を配れ、と言っている。どうしてしまったのか。

この原因は欧米コンプレックスがあると考える。

コロナウイルスショックは、最初は欧米人にはかつての植民地の疫病であるかのように扱われた。中国の武漢という、北京でも上海でもない未開の地(彼らにとってだけなのだが)で発生したコウモリの疫病だった。そして、日本というまぬけな国がお人好しにもクルーズ船を受け入れあたふたしているのを、せせら笑ってみていた。オリンピック大丈夫かい、代わりに開催してあげるよ、とロンドンが名乗り出るとか出ないとかという噂さえあった。

それが一変したのは、イタリアで死者が多数発生したときではなく、イギリスそしてアメリカに上陸したときだった。これを機に議論は一変した。インテリメディアといえばイギリス、アメリカである。この二つが慌てて、世界は180度変わった。

アメリカの共和党と大統領は3月上旬まで、フェイクニュースとは言わなかったが、民主党が騒いでいるだけだ、大げさに言って共和党を不利にしようとしている、陰謀説まで流す共和党員もいた。

しかし、ニューヨークで死者が急増し、世界はさらに一変した。

「コロナ後の世界」のまやかし

こうなると、これがいかに人類史上最大の危機か、ということを騒ぎ始める。

気の早いインテリたちは、コロナで世界は変わる、コロナ後の世界を論じ始める。それは彼らの関心だけで、世界は何も変わらない、ひとつの深刻な感染症が再び登場しただけのことなのだが。SARSもMERSもましてやエボラ出血熱やジカ熱は未開の地の土着の疫病という扱いだったのに、コロナは同じ感染症だが、こちらは人類の歴史を変えるものだと。

世界を結集して、人類史上最大の問題を解決するために、すべてのエネルギーを注ぎ込め、ワクチンを全力で開発せよ、と正義であるかのように主張する。

ワクチン開発は全力ですればいいのだが、これまで何もしてこなかったより致死性の高い病気は世界に溢れている。

典型例はマラリアだ。いまだにマラリアは毎年何十万人もの命を奪っている。2015年には2.1億人が感染し、44万人が死亡した。ただし、90%以上がアフリカでの報告である。この病は4000年前から知られている病気であるが、製薬大企業が全力で解決しているようには見えないし、欧米政府が全力で研究を支援しているとは思えない。NGOなどがいくら訴えても、その世界での出来事だ。WHOはもちろんわかっているが、力がなさ過ぎる。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領、非常戒厳宣言巡る弾劾裁判に出席

ワールド

性別は「男性と女性のみ」、トランプ氏が多様性政策撤

ビジネス

米経済、政策次第で上下にリスク 軌道修正の可能性も

ワールド

米政府効率化省、大統領令で設置 マスク氏主導で「ム
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの頭の中
特集:トランプの頭の中
2025年1月28日号(1/21発売)

いよいよ始まる第2次トランプ政権。再任大統領の行動原理と世界観を知る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    被害の全容が見通せない、LAの山火事...見渡す限りの焼け野原
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 6
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 7
    メーガン妃とヘンリー王子の「山火事見物」に大ブー…
  • 8
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    大統領令とは何か? 覆されることはあるのか、何で…
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story