コラム

アベノミクス論争は無駄である

2016年07月07日(木)11時12分

 どういうことが起こるかについて、タイミング、プロセスなどについては、別の機会に論じたい。ここでのポイントは、このリスクが生じたのは、日銀の異次元金融緩和によるものであるから、アベノミクスがなければ存在しなかったリスクであり、100%アベノミクスによるリスクといえる。

 2の財政破綻リスクは、従来から存在したが、消費税引き上げ中止により、その可能性は高まったから、アベノミクスによりリスクが増大したといえる。ただ、今回の選挙でも大幅な財政出動が約束されたわけではないから、自民党の伝統的な政策、財政支出によるばら撒きも、ヘリコプターマネーの基礎となる地域振興券などの現金のばら撒きも大規模には行われていないから、当初のアベノミクスの機動的な財政出動と銘打った政策からの予測よりは、リスクは高まらなかったと言えるかもしれない。

 これは、消費税引き上げの中止により、永遠に消費税引き上げが不可能になり、財政破綻が必然となることを決定付けた、と考えるかどうかにより、変わってくるだろう。

 個人的には、これも別の機会に議論するが、消費税率が8%か10%で財政破綻したほうが、20%になってから財政破綻するよりはましだと考えているので、財政支出大幅拡大、消費税10%と財政支出横ばいで消費税8%なら、後者の方がましだという評価である。

 3は、常に存在するのであるが、これは日銀の金融緩和とGPIFの日本株への傾斜により拡大したと考えられる。異次元緩和第一弾では、異常な割安から妥当な水準に戻ったので、株価はバブルとは言えず、2014年10月末の追加緩和によるバブルが起き、それは2016年に入って崩壊したと考えられる。マイナス金利は逆効果だったので、ただ株価を下落させた。

 トータルで言えば、世界は圧倒的に変動が大きくなり、国内株式や為替(円)の変動が大きくなったのは、アベノミクス、サプライズ戦略を中心とした金融政策によるものであるから、その意味で、アベノミクスによりリスクを大幅に拡大したと言えるだろう。

最後にGPIFによる株式投資による、年金財政への影響を考える

 一方、GPIFは2014年10月末以降のバブルを作ったが、それは崩壊してしまったので、効果はなく、今後のリスクだけが残ったことになろう。ただし、2013年から、政権の動きとしては、GPIFに日本株を買わせるというものがあり、これを材料に海外投資家を中心に日本株を買い進んでいたから、妥当な水準に株価を戻すことに効果があった部分もある。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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