コラム

アベノミクス論争は無駄である

2016年07月07日(木)11時12分

Toru Hanai-REUTERS

<論じても不毛なアベノミクスが、あるべき経済政策論議を混乱させている。本当に大事な論点は何か、整理する>

 アベノミクス論争は無駄である──アベノミクスは、存在しないからだ。

 アベノミクスとは何か──何でもない。なんにもないから、定義のしようもない。だから、議論も出来ないし、することは無駄である。アベノミクス、この道しかない、というのは、これからも何もしない、ということである。

 素晴らしい。

 なぜなら、現在、経済政策は動かないのがベスト、ある種のセカンドベストだからである。アウェーの戦い、何をやっても経済にはマイナスの局面では、我慢のとき、動かないことしかない。

 それゆえ、アベノミクスは中身がないところが、良いところ、唯一の良いところなのである。

 アベノミクスは中身が存在しないので、議論をすることは無駄である。

 しかし、賛成側、反対側が無駄な議論を続け、世論を混乱させているので、ここで経済政策に関して、論点を整理してみたい。

論点1)アベノミクスとは何か

 有力な解釈は4通り。

回答1-1
 アベノミクスには実体がない。実体がないから何もない。

回答1-2
 実体はないが、虚像はある。「デフレ脱却」という呪文を唱え続けることにより、世の中の雰囲気を変える。マインドコントロールともいえるが、日本経済に蔓延する過度の悲観論というマインドコントロールを解いたとも言える。よって、マインド戦略、あるいはイメージ戦略、である。というのが二つ目の解釈。

回答1-3 アベノミクスは存在しないが、クロダノミクスは存在する、という解釈。つまり、アベノミクスは日銀の金融緩和以外は何もない。

回答1-4 アベノミクスの本質はポピュリズムである。それ以外には何もない──株価が上がれば支持率が上がるのであれば、株価対策を全力で行う。現在は、株価対策では株価が上がらなくなってきた上に、株価対策と見られる動きを政治的に直接行うことは支持率を下げるため、直接の株価対策は止めた。その代わりに消費税増税、いかなる増税も不評なので、増税を在任期間中は中止した。それ以外の派手な財政出動は都市部の浮動票を減らすので行わず、財政再建という姿勢(ポーズ)は堅持した。

 ここでは、安倍政権になってからの経済政策全体として捉えることとし、もっとも広い解釈で、回答1-2と1-3と1-4を組み合わせたもの、つまり、デフレ脱却、という呪文を唱え続け、経済政策を一生懸命やっている、という姿勢を見せ続ける、というイメージ戦略と日銀の大幅な金融緩和政策、ポピュリズムの増税中止(ベースラインから見れば減税)の3つを組み合わせたものがアベノミクスであると定義しよう。

真のアベノミクスとは、真の三本の矢、

1 ポピュリズム減税
2 日銀依存の金融緩和
3 呪文によるイメージ戦略

により構成されている、というのがここでの結論だ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story