コラム

日本株の不安な未来

2015年08月21日(金)18時15分

荒れ模様 世界的株安のなかでも日本株は大きく下がる Thomas Peter-REUTERS

 株価が下がっている。この理由は2つある。

 まず、世界的な株価の下落の影響である。世界的な株価下落の流れに、日本も当然巻き込まれている。世界の株価が連動するのは当たり前のことだが、なぜこれが当たり前かは、行動ファイナンスの立場からも注意しておく必要がある。

 世界の株価が連動する理由は2つある。金融危機の伝播が大きな関心事となったのは、1990年代末のアジアの金融危機で、タイのバーツ危機を発端に、韓国やインドネシアなどの各国の経済も市場も崩壊した。もちろん、日本ではリーマンショックと呼ばれる、2007年以降の世界的な株価暴落が最も鮮明な印象を人々に与えた。

 危機の伝染の2つのメカニズムは、金融的なものと実体的なものである。前者は、投資家による伝染で、同じ投資家が世界中に投資しているから、米国でその投資家が損失を被って投げ売りを余儀なくされれば、彼は日本市場でも現金化できる資産はとにかく投げ売ってくる。リーマンショックで、米国大手保険会社AIGが世界中の不動産関連商品を投げ売りし、日本のJ-REITも暴落したのもそのためだ。

 もうひとつの理由は、実体経済で、米国経済がおかしくなれば、米国への輸出で稼いでいる中国など新興国経済が破綻する。中国が不況になれば、日本の景気は当然悪くなる。だから、米国も中国も日本も株価が下がる、ということである。

 2つの中間と言えるのが、金融政策による株価変動である。来月にも実施される可能性がある、FRB(米連邦準備理事会)の利上げであるが、量的緩和の終了と米国利上げの可能性が、世界同時株安をもたらす、と言ったときには、金融現象なのか実体経済なのか、どちらに当たるか、ケースバイケースである。

 つまり、米国利上げだから、祭りは終わりだ、リスクオフへ、といったときには、金融的な暴落の連鎖であり、世界中の機関投資家が売りに傾くからである。これは、同じ投資家が世界中で売るから世界が同時に下がる、という効果だけでなく三重の効果がある。2つ目は、モーメンタムの連鎖である。大手が売るから相場が崩れる。それなら自分も売っておこう、ということで、売りが投資家から投資家へ連鎖する。さらに、それは見込みだけの連鎖となる。つまり、人が売りそうだから売っておくのだが、相互にそれを行うから、誰も売り始めなくても売りが始まり、やっぱり売りが始まるのである。集団による、期待(予想)の自己実現である。

作られた「中国ミステリー」が売りを呼ぶ

 ヘッジファンドなどは、この連鎖をあえて仕掛けてくる。まだ、その連鎖が始まっていないのに、そのような雰囲気を作れば、連鎖が始まると読み、雰囲気が少し変わったイベントと捉えて先に売りを仕掛け、それにより、雰囲気を確定、拡大させ、売りの連鎖を呼び込むのである。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story