コラム

日本株の不安な未来

2015年08月21日(金)18時15分

 3番目の効果は、不安が恐怖にまで達した場合によく起こることであるが、投資家が激しく悲観し、投げ売りを始め、その悲観が悲観を呼ぶ、というセンチメントの連鎖的伝播である。これが上昇に乗れば、バブルだし、崩壊すればパニックである。

 金融政策の変更は当然これにあたる、と言った方がメディア的にはおもしろいが、注意しなければならないのは、もっと地味な連鎖もあり得るのであり、それが実体経済による連鎖、あるいは実体経済の連鎖を予想することによる連鎖である。

 すなわち、流動性の供給が減り、新興国に資金が流れ込まなくなり、新興国の投資が減少、実体経済も悪くなる。その結果、資源需要も減り、価格が下がる。新興国通貨も弱くなり、ますます投資が減り、輸出に有利と言っても、現在の経済では資産効果、投資の効果の法が大きく、世界的に景気は減速する。よって、世界的に株価が下がる。このようなメカニズムである。

 現在の世界的な下落は、「中国ミステリー」と相まって、後者の実体経済連鎖を中心に株価下落が同時に起こり、それを材料に金融的な下落の連鎖も起きていると言えるだろう。中国ミステリーとは、外交でも経済でも、中国のことになると、米国の論者ですら、冷静さを失い(米国だからこそ、だが、日本の論者も酷い)、中国の統計はすべて信じられない、実際には暴落が始まっている、報道はすべて操作されていて、実態はものすごく悪い、という議論をまじめに行う。


日本株だけが下落するもう一つの深刻な理由

 酷いアナリストレポートになると、(中国を何としても支えたいという楽観的なものだが)株価の暴落で、消費が増える。なぜなら、これまでバブルに投資するために、消費を我慢して、すべてのカネを株に突っ込んできたような個人が、株価暴落でお金を株から消費に移す。だから、消費は伸びる。このような議論をまじめに行っているようでは、中国については思考停止状態と言っていいだろう。

 いずれにせよ、今回の世界的な株価の下落は、実体経済に対する予想(一部妄想)により起きているので、下落の雰囲気や下落のスピードを静かなものにしているが、その分、影響もボディブローのように深刻であり、今後もトレンドとして続き、反転はしにくいだろう。

 さらに、日本株だけが下落する理由がある。日本株だけが、今年は大きく上がっているからだ。それは、日本株だけ、日銀が買う、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が買う、だから投資家も買う、という別の論理で買いが増加し、それが世界的に広がってきたからだ。大きく上がった分、世界の流れが変われば、大きく下がる。しかし、それを買い支えているから、すぐに一旦戻す。この機会を利用して、海外投資家は上手く売り抜ける。これまで、株価が高く維持されてきた分だけ、日本株は、世界の株式よりも下落余地が大きい。今回は、日本株の投資家が特殊であることが、暴落の連鎖の短期的な防波堤になり、だからこそ、中期的に大きな下落をもたらすことになるだろう。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送-AIが投資家の反応加速、政策伝達への影響不明

ビジネス

米2月総合PMI、1年5カ月ぶり低水準 トランプ政

ワールド

ロシア、ウクライナ復興に凍結資産活用で合意も 和平

ワールド

不法移民3.8万人強制送還、トランプ氏就任から1カ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story