コラム

なぜ「台湾のなかの日本」が映画になるのか

2017年07月21日(金)16時43分

戦後の日本社会では、台湾を接収した中華民国がすぐに大陸を喪失したため、台湾は国際政治の間に落ちたような忘れられた存在になり、日本の台湾統治があたかも「なかったこと」であるかのように言及されなくなった。戦後日本の主流の価値観でもあった植民地=悪という歴史観のなかで、台湾における日本人と台湾人の交流といったテーマはタブーに近いものだった。

台湾でも、中華民国の抗日戦争の「勝者」という立場から、日本の台湾統治は全否定される歴史観が主流となり、国民党の一党専制下では、日台交流や日本と台湾の絆といったテーマが表立って扱われる余地はなかった。

それが台湾の民主化、日本での台湾ブームなどの要素があいまって、閉じられていたフタが開かれた形である。お互いの社会になお息づいている「内なる他者」である日本、あるいは「内なる他者」である台湾を取り上げるという作業が相次いでいるのは、日台の埋もれた歴史の再発見を求めている潮流とみることができるだろう。

もちろん個々の監督たちはそうした意識があるとは限らないが、そうした日台史の再評価という視点から、この夏に『台湾萬歲』や『海の彼方』を見てみることも、1つの楽しみ方ではないだろうか。

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『海の彼方』の黄インイク監督(左)と『台湾萬歳』の酒井充子監督 Photo: Tsuyoshi Nojima

【参考記事】自転車の旅が台湾で政治的・社会的な意味を持つ理由

●『台湾萬歳』
7月22日よりポレポレ東中野にて公開ほか全国順次
公式サイト:taiwan-banzai.com

●『海の彼方』
8月12日よりポレポレ東中野ほか全国順次ロードショー
公式サイト:www.uminokanata.com

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プロフィール

野嶋 剛

ジャーナリスト、大東文化大学教授
1968年、福岡県生まれ。上智大学新聞学科卒。朝日新聞に入社し、2001年からシンガポール支局長。その間、アフガン・イラク戦争の従軍取材を経験する。政治部、台北支局長(2007-2010)、国際編集部次長、AERA編集部などを経て、2016年4月に独立。中国、台湾、香港、東南アジアの問題を中心に執筆活動を行っており、著書の多くが中国、台湾でも翻訳出版されている。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)『銀輪の巨人』(東洋経済新報社)『蒋介石を救った帝国軍人 台湾軍事顧問団・白団』(ちくま文庫)『台湾とは何か』『香港とは何か』(ちくま新書)。『なぜ台湾は新型コロナウイルスを防げたのか』(扶桑社新書)など。最新刊は『新中国論 台湾・香港と習近平体制』(平凡社新書)

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