コラム

週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった

2025年01月30日(木)16時18分

グレーを黒と決めつける人々

記事はあくまでも「フジ社員が関与している疑惑」を報じたに過ぎない。それを勝手に「フジ社員が関与していた!(断言)」と読み替えたのは、SNS上の人たちである。彼らは有料媒体である週刊文春に1円も金を払わず、タイムラインに流れてくる断片情報や伝聞、偏頗な見解や偽情報やらを適当にくっ付けて速断する。

ゆえに、文春記事をちゃんと読めば「疑惑レベル」と分かるものが、SNSの腐海に浸っていると分からなくなってしまう。こうして誤読する人々が一定量を越えて来ると、もはやSNS上では「フジ社員が会食をセッティングした! 文春にそう書いてある!」という極端化した言説が大勢を占めるようになる。

そうなるともう、該当記事は「フジ社員が関与したと書いてあるもの」として人々に認識されてしまう。断定などしていないのに、断定したと曲解されてしまう。ゆえに、曲解する人々に向けて訂正を出さねばならない事態となったのだ。すなわち、文春編集部はSNSにはびこる衆愚の餌食となったのである。「白」と「黒」の2パターンしか識別できない集団に、グレーのものを見せてはいけないのかもしれない。

飲食業界では「良い店は良い客が育てる」と言われるが、メディアも同じである。味も作法も分からないドケチな客が押し寄せてきたら、どんな良い店でもおかしくなる。変な食べ方をする人に向けて、不必要な注意書きを貼ることになるだろう。今般の文春の訂正騒動は、それと同じことではないだろうか。

訂正記事を出したきっかけは、橋下徹からの指摘だという。ネット世論を知悉する稀代の切れ者に訂正を出すべきだと滔々と迫られ、言いくるめられてしまったのかしらんと私は思っている。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP新書)など。

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