コラム

周庭(アグネス・チョウ)の無事を喜ぶ資格など私たちにあるのだろうか?

2023年12月04日(月)11時05分
アグネス・チョウ

2019年の香港デモのさなかに支援を求めて来日した周庭氏(中央)Newsweek Japan

<「香港の民主の女神」と呼ばれた周庭(アグネス・チョウ)さんの無事が確認され、現在はカナダに留学していることが分かった。安堵はするものの、かつての香港に手を差し伸べることができなかった私たちに、彼女の無事を喜ぶ資格などないのかもしれない>

香港の民主活動家をしていた周庭(アグネス・チョウ)さんが2年半ぶりにインスタグラムを更新し、自身の近況を報告した。現在はすでに香港を離れ、カナダに留学中だという。

周庭さんと言えば日本メディアで「香港の民主の女神」とも称され、日本人にとっては香港の民主化運動の象徴的存在だった。若い香港人女性が覚えたての日本語を駆使しながら必死になって「香港の民主主義への支持」を訴える姿に、心打たれた人も少なくないだろう。

長らく消息不明となっていた彼女の無事が確認できて一安心......であるのは確かなのだが、近年の香港情勢を取材してきた私としては、現下の状況を素直に喜べないでいる。

日本人には、と言いたいところだが、敢えて「私」を主語にしてもいい。私には、彼女の無事を喜ぶ資格などあるのだろうか? こう自問自答せざるを得ないのだ。

彼女を含む過半数の香港人が望んでいた「香港の民主主義」のために、私はほとんど何もできなかった。日本政府は「重大な懸念」や「遺憾」をお為ごかしのように示したが、中国がそんなものに耳を貸すはずもなかった。

私を含む多くの日本人は、口では「香港頑張れ」と言っていたものの、行動としては中国を利するようなことばかりしていたのではないだろうか。日本だけではなく、欧米諸国も同じである。

プロフィール

西谷 格

(にしたに・ただす)
ライター。1981年、神奈川県生まれ。早稲田大学社会科学部卒。地方紙「新潟日報」記者を経てフリーランスとして活動。2009年に上海に移住、2015年まで現地から中国の現状をレポートした。著書に『ルポ 中国「潜入バイト」日記』 (小学館新書)、『ルポ デジタルチャイナ体験記』(PHP新書)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

海外動向など「不確実性高い」、物価に上下のリスク=

ワールド

中国の秘密ネットワーク、解雇された米政府職員に採用

ビジネス

米、輸出制限リストに80団体追加 中国インスパー子

ワールド

トランプ氏、情報漏洩巡り安保チーム擁護 補佐官「私
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 5
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 6
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 7
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 8
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 9
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 10
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story