「自己責任論」から「親ガチャ」へ...「ゼロ年代批評」と「ロスジェネ論壇」の分裂はなぜ起きたのか
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<現在、「親ガチャ」、地方や社会階層をテーマにツイッター(現・X)で「格差の再生産」が議論されているが、20年前は異なっていた>
既存の権力や秩序から自由だったはずのサイバースペースは、今や古くから続く政治・権力争い・謀略・戦争の世界に巻き込まれている。
「ゼロ年代」「ロスジェネ」「格差」...。2000年代初頭に論じられていたことは現在、どのように継承され、継承されなかったのか。
気鋭の批評家・藤田直哉の最新刊『現代ネット政治=文化論: AI、オルタナ右翼、ミソジニー、ゲーム、陰謀論、アイデンティティ』(作品社)より「第一部 ネット時代の政治=文化」を一部抜粋。
ゼロ年代の言説は、分裂していた。オタクやネットを扱う「ゼロ年代批評」と、格差や労働の問題を扱う「格差論壇」「ロスジェネ論壇」に。
前者は、社会や政治の問題を忌避する傾向があった。2004年に流行語になった「萌え」という言葉が象徴する、社会や世界の問題を無視して多幸感に浸れる疑似的なユートピアを描くフィクションに耽溺する者たちが多数支持した。
一方、この社会や生の深刻な問題に直面し、なんとかしようとする者たちが後者であり、その間に、感性・認識・ライフスタイルの次元での深刻な分断があったと言ってもいい。
前者は後者を「冷笑」することが多かった。当時、圧倒的に影響力があったのは前者だった。今から振り返れば、正しかったのは後者であったと思われるかもしれない。
2001年に小泉内閣が誕生し、経済財政政策担当大臣に竹中平蔵が就任した。「構造改革」がキャッチフレーズになり、新自由主義路線に大きく舵が切られた。
2004年には山田昌弘『希望格差社会』が刊行され、格差の再生産などに警鐘が鳴らされ、2005年には本田由紀『多元化する「能力」と日本社会―ハイパー・メリトクラシー化のなかで』が刊行されメリトクラシー(能力主義)の問題が指摘される。
これらを問題視する者に対して、2ちゃんねるなどでの多くの論調は、主張を真面目に受け取らず、「ブサヨ」「反日」などと叩くのが大多数だった。
生活保護やニートや童貞や無職を叩いて嘲笑し、「自己責任」とする論調も強かった。2004年イラク日本人人質事件では「自己責任」の大合唱であったことは今でも良く覚えている。
現在とは異なり、2000年代前半では、ニートやフリーターは、「自己責任」であり「心の闇」の問題として心理化される傾向があった。
不況と、日経連の「新時代の日本的経営」による提言で正規と非正規に労働者を分断したことなどによって、ニートやフリーターが増大していることは、政策的にも統計的にも明らかであるにもかかわらず、当人たちの内面に責任を帰し、社会全体が彼らを犠牲にしながらその利益を得たのだ。
そしてその「自己責任」という認識を当人たちに内面化させるという卑劣なことまで行われた。ある意味で、虐待と洗脳に近い。
だからなのか、2ちゃんねるなどでは、「無職」「童貞」「ニート」などの煽りや自嘲も多かった。ただ、当時はまだ悲壮感がなく、ユーモアもあった。
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