職人技をいかに継承するか? 海外でも人気「角缶」復活の物語
2つの缶は、もともと茶筒と海苔入れだった
この人気商品の誕生には、裏話がある。冒頭で形について触れたが、丸缶はもともと茶筒で、角缶はもともと海苔を入れるための缶なのだ。
紙などが巻かれ、茶や海苔のパッケージとして使わる缶に価値を見出した宇南山さんは、2009年、この缶で新たな商品を作ろうと考えた。同じ台東区にある缶を扱う問屋に「紙などを巻かない状態の缶を、そのまま商品にしたい」と相談したところ、一度は断られた。
これらの缶は、本来は人目に触れない存在だ。そのため、下町の職人が作ったままの缶には汚れや傷が付いており、商品にはならないというのが職人側の言い分だった。
そこで、仕入れた缶をSyuRoで磨き上げ、検品も行うという条件を課すことで、商品化が実現した。商品化にあたってこだわったのが大きさだ。丸缶、角缶、それぞれにサイズのバリエーションがあるが、積み重ねたときや並べたとき、美しく見えるという観点から大きさを決めた。機能ではなく、感覚でサイズを決めたことが、缶にさまざまな用途をもたらした。
商品化に向け、ブリキならより錆びにくい素材を用いるなど、できる限り商品としての質を高める工夫も施した。同年の見本市に出品したところ反響が大きく、翌年から販売数を伸ばした。その後、台東区の助成金を活用し英語を記したカタログを作成したことが、海外販路の開拓につながっている。
そんな角缶が今、生産休止に陥っている。手がける職人が、2016年9月に体調を崩したのだ。元の職人や工場で作れなければ、ほかで作ればいいとも思えるが、そう単純な話ではないらしい。というのも、角缶を作っていた職人は缶問屋から「腕利きの職人」として紹介された人物だった。
SyuRoの角缶は、金属板を折り込むことで箱を形作るという独自の手法で作られている。職人技で仕上げられた特別な品であることは、角缶の四隅の折り込みに見て取れる。
宇南山さんは、職人技により作られた角缶の魅力について「角缶は、中村さんという職人さんしか作れなくて、機械も使うけど、ほぼ手作業。金属板を折り込んで作ることと、仕上げに四隅を叩いて角に丸みを出しているのが特徴です」と語る。
「絶妙な締まり具合も、職人技ならでは。手に馴染む使いやすさや高い精度に、作り手の思いが表れている気がするんです」。小さな箱に確かに宿る日本の職人技と、角缶の海外での高い評価は、けっして無関係ではないはずだ。