職人技をいかに継承するか? 海外でも人気「角缶」復活の物語
後継者探し、資金調達...「角缶」復活への挑戦
角缶を中心にオーダーしてくる取引先もいるほどの主力商品の欠品は、SyuRoにとって大きな痛手だ。2017年には、角をハンダで留めて仕上げた「ハンダ缶」の販売に踏み切ったが、宇南山さんは、"曲げ"だけで作る角缶の復活を諦めていなかった。
紆余曲折を経て、元の工場を継ぐことができるようになったのは2017年4月のこと。それからいろいろな話し合いを経て、求人サイト「日本仕事百科」で募集をかけると、1カ月ほどで15人の応募が寄せられた。新しい工場長は、もともと時計の修理などを手がけていた35歳の2児の父、石川浩之さんに決定した。
ところが、角缶の製造再開には、もうひとつ大きな問題があった。職人の中村さんがただ1人で作っていた角缶の詳細な作り方を、誰も知らないのだ。残っているのは、宇南山さんやSyuRoのスタッフが工場を訪れた際に2回ほど試作した記憶と、工場の機械や材料のみ。
こうした手がかりを頼りに、新しい工場長は7月25日から1人で工場を開け、すでに角缶の再現に取り組んでいる。近々、工場の設備資金を集めるクラウドファンディングを開始し、順調に行けば、新しい角缶の出荷は11月を見込んでいるという。
宇南山さんによれば、後継者不在により日本の職人技が途絶えてしまうケースは、ここ最近多いそうだ。
「金属を扱う工場で、閉めているところは結構ありますね。SyuRoのほかの商品でも、丸缶やタオルやブラシ、ガラス、あるいは急須屋さんで作っている器も。後継者問題に悩んでいる工場は多いですね」
さらに、こうした問題は日本に限った話でもないようだ。SyuRoで以前販売していたノートは「オニオンスキンペーパー」という米国産の薄い紙を使っていたが、紙の工場が廃業となり廃盤にせざるを得なかった。
今回のように、職人技の受け継ぎ手を探すことが、モノ作りの現場にとって重要な課題となっている。宇南山さんはこう語る。
「商品をデザインして、売るだけの時代は終わりました。これからは、どのように次につないでいくか。新しい商品などで、工場のイメージを変えていけば、若い人もやりたいと、興味を持って、振り向いてくれる。そういうきっかけづくりにも、力を入れていきたい」
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