最新記事
シリーズ日本再発見

職人技をいかに継承するか? 海外でも人気「角缶」復活の物語

2017年08月14日(月)16時25分
廣川淳哉

後継者探し、資金調達...「角缶」復活への挑戦

角缶を中心にオーダーしてくる取引先もいるほどの主力商品の欠品は、SyuRoにとって大きな痛手だ。2017年には、角をハンダで留めて仕上げた「ハンダ缶」の販売に踏み切ったが、宇南山さんは、"曲げ"だけで作る角缶の復活を諦めていなかった。

紆余曲折を経て、元の工場を継ぐことができるようになったのは2017年4月のこと。それからいろいろな話し合いを経て、求人サイト「日本仕事百科」で募集をかけると、1カ月ほどで15人の応募が寄せられた。新しい工場長は、もともと時計の修理などを手がけていた35歳の2児の父、石川浩之さんに決定した。

japan170814-6.jpg

かつて訪れた際に撮影した工場の様子。さまざまな機械が並んでいるが、基本的に職人による手作業で角缶は作られていた Photo:宇南山加子

ところが、角缶の製造再開には、もうひとつ大きな問題があった。職人の中村さんがただ1人で作っていた角缶の詳細な作り方を、誰も知らないのだ。残っているのは、宇南山さんやSyuRoのスタッフが工場を訪れた際に2回ほど試作した記憶と、工場の機械や材料のみ。

こうした手がかりを頼りに、新しい工場長は7月25日から1人で工場を開け、すでに角缶の再現に取り組んでいる。近々、工場の設備資金を集めるクラウドファンディングを開始し、順調に行けば、新しい角缶の出荷は11月を見込んでいるという。

宇南山さんによれば、後継者不在により日本の職人技が途絶えてしまうケースは、ここ最近多いそうだ。

「金属を扱う工場で、閉めているところは結構ありますね。SyuRoのほかの商品でも、丸缶やタオルやブラシ、ガラス、あるいは急須屋さんで作っている器も。後継者問題に悩んでいる工場は多いですね」

さらに、こうした問題は日本に限った話でもないようだ。SyuRoで以前販売していたノートは「オニオンスキンペーパー」という米国産の薄い紙を使っていたが、紙の工場が廃業となり廃盤にせざるを得なかった。

今回のように、職人技の受け継ぎ手を探すことが、モノ作りの現場にとって重要な課題となっている。宇南山さんはこう語る。

「商品をデザインして、売るだけの時代は終わりました。これからは、どのように次につないでいくか。新しい商品などで、工場のイメージを変えていけば、若い人もやりたいと、興味を持って、振り向いてくれる。そういうきっかけづくりにも、力を入れていきたい」

【参考記事】「復活」ソニーが作ったロボットおもちゃ「toio」とは何か

(SyuRoの海外向け動画)


japan_banner500-season2.jpg

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦が発効、人質名簿巡る混乱で遅延 15カ月に

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 3
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 4
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 5
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 9
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中