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シリーズ日本再発見

切手33万種、郵便ポスト16基の「郵便の殿堂」

2016年09月30日(金)12時16分
長嶺超輝(ライター)

撮影:遠藤 宏(すべて)

<身近すぎて普段は意識に上らないかもしれない「郵便」だが、その歴史には驚きが詰まっている。東京スカイツリータウンのソラマチにある「郵政博物館」は、貴重な歴史資料と(なんといっても!)約33万種もの切手コレクションを誇る専門博物館。万人を飽きさせない構成になっており、スカイツリー観光のついでに立ち寄って損はない> (写真:世界各国で発行された約33万種の切手を閲覧できる「『切手』ノ世界」コーナー。パネルを引き出すまで展示物が見えないので、宝箱を開けるような感覚を味わえる)

【シリーズ】日本再発見「東京のワンテーマ・ミュージアム」

 郵便サービスは、どの街角でも見かける身近な存在である。郵便局、郵便ポスト、郵便物を配達する郵便局員......。どれだけ辺鄙な村や島々であっても、郵便マークを見かけるものだ。ただし、現代社会においては、普段は意識にすら上らない空気のような存在かもしれない。

 改めて考えると、郵便とは凄いシステムだ。小包(ゆうパック)以外であれば、全国一律の料金で運んでくれる。小包は「運送」だが、ハガキや手紙は「通信」。しかも電話やインターネットと違って、相手方に通信装置やインフラが整備されていなくても、責任を持って手元へ届けてくれる。誰にでもオープンな一律の格安料金が設定され、どれだけ遠くにいる人とでも気軽にコミュニケーションを取れる通信サービスだ。

 1871年、そんな「郵便」というシステムを日本に確立したのは、1円切手の肖像でおなじみの前島密だった。世界で初めて全国統一料金の近代郵便制度が発足したイギリスで画期的な仕組みを目の当たりにした前島は、積極的に日本へ輸入した。ポストの色を「赤」と決めたのも前島だった。

 2014年、郵便および通信の専門博物館として、郵政博物館が東京スカイツリーの麓にある商業施設「東京ソラマチ」の9階に開設された。千代田区にあった逓信総合博物館(2013年閉館)から収蔵品を引き継ぎ、日本に郵便が輸入されたばかりの頃の時代背景や、当時の運用実態を感じさせるゆかりの物を多数展示している。

郵便局員はラッパやピストルを持っていた

 明治時代、郵便局員はハガキたった1枚を届けるためにも、山奥の民家1軒を目指して、ひとりで歩いて向かったという。たとえば、ヨーロッパでは、郵便局員が手紙を届けに来たときに小さなホルンを鳴らして到着を知らせたというが、日本では当時、山道を歩く途中で猛獣に襲われないよう、熊よけの「ラッパ」を携帯していた。このラッパは渡船場で船頭を呼ぶのにも使われた。

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日本の郵便制度が発足した直後の郵便配達員の携帯品が壁面に展示されている。ラッパやピストルなど、現代の感覚では驚くべきものも携帯していた。真夏には頭部が汗などで蒸れないよう、郵便の標章の付いた「麦わら帽子」(左端)をかぶっていた時期もあったという

 また、初期の郵便局員はピストルも携帯していたという。展示された古びたピストルについて、学芸員の冨永紀子氏が「人々から、何か貴重な物を運んでいるのではないかと誤解されたこともあり、護身用に持っていたそうです」と解説してくれた。

【参考記事】活字離れの今、この「活字」と印刷の歴史資料を堪能する

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