何時間でも思い出に浸れる、90年の放送史を詰め込んだミュージアム
そこから2階へ上がると「テレビドラマの世界」コーナー。待ち受けるのは、懐かしい街並みのジオラマセットである。2012年上半期に放映された朝の連続テレビ小説『梅ちゃん先生』のタイトルバックで使われたものだ。
壁面に目を向けると、朝ドラと大河ドラマの歴代ポストカードがびっしりと貼られている。モニターでは年代別でドラマを検索してダイジェスト映像を観ることもできるので、視聴しながら当時の思い出が脳裏に浮かんでくる方も多いのではないか。
なかでも、不朽の名作と名高い『おしん』は世界各国で放映され、古き良き日本の文化や国民性を海外へ広める役割に大きく貢献したのはご存知の通りである。
その隣に設置してあるのは、大河ドラマの衣装に画面上で自由に着替えられる『バーチャル・フィッティング』である。センサーが利用者の身長や動きなどを自動的に検知して、合成される仮想衣装の大きさも調整されるので、子どもにも大人にも人気のアトラクションだ。
さらに奥へ進むと、リニューアル前から多くの来館者に根強く支持されている紅白歌合戦コーナーや、「にこにこぷん」や「ひょっこりひょうたん島」など、こども番組の懐かしい人気キャラクターの実物が展示されているエリアもある。
「玉音盤」まである日本放送史コレクション
ポップな雰囲気の2階に別れを告げて、3階へ上がると、一気に博物館らしいアカデミックな空気が漂う。数多くの貴重な資料や機材が並ぶ「ヒストリーゾーン」である。年季の入ったラジオマイクや受信機、世界初のブラウン管実験の再現、テレビ放送初期の巨大なカメラ機材など、時代の流れを引っ張り、ときに寄り添ってきた放送史の足跡を感じさせる展示物が、通路の両脇で静かに来館者を待ち受ける。
注目すべきは、「戦時下の放送」コーナーに鎮座する「玉音盤」である。ポツダム宣言の受諾を告げる昭和天皇の玉音(終戦詔書の朗読)を収録したレコードの実物で、放送前日の8月14日深夜に宮内庁で収録された。この玉音盤のラジオ放送を阻止しようと、陸軍の一部によるクーデター未遂事件(宮城事件)も起きた。日本の命運に大きなくさびを打ち込んだ円盤を目の当たりにすることができる。