コラム

世界に混乱をもたらす「トランプ関税」をロシアが免れたワケ

2025年04月09日(水)15時45分
プーチンとトランプ

ドイツ・ハンブルグで行われたG20サミットで話すプーチンとトランプ(2017年7月) ALAMY via REUTERS

<アメリカと取引があるにも関わらず関税引き上げ から除外されたロシア。トランプ政権の思惑はどこにあるのか、関税戦争の勝者は誰なのかを紐解く>


・米トランプ政権による関税引き上げの対象は185カ国に及んだが、そのなかにロシアは含まれていない。

・これについてトランプ政権は「制裁が続き、取引がほとんどない」からと説明するが、昨年アメリカの対ロ輸入額は約32億ドルあった。

・トランプ政権がロシアを例外扱いしたのは、ウクライナ停戦協議をめぐって関係改善を優先させた結果とみられる。


事実に反する説明

米トランプ政権は程度の差はあれ、世界185カ国に対して関税引き上げの措置をとったが、なかにはそれを免れた国もある。

特に目立つのが、ロシアの除外だ。

ロシアに対する関税を引き上げなかった理由として、トランプ政権は「制裁が行われていること」と「すでに取引がほとんどないこと」をあげている。

しかし、こうした説明は事実に反する。

ウクライナ侵攻後、アメリカはロシア産天然ガスなどの輸入を停止したが、肥料、木材、ウラン精鉱などの輸入は続けていて、その金額は2024年、約32億ドルだった。

金額だけでいえば、ウクライナ侵攻以前の2021年の10分の1程度まで減少している。

とはいえ、アメリカが通商を制限している国はロシアだけではないが、そのなかには関税を引き上げられた国もある。

たとえばアメリカはイランを1979年以来「テロ支援国家」に指定しており、昨年の対イラン輸入額は629万ドル程度に過ぎなかったが、それでも関税を10%引き上げられた。

また、アメリカは内戦の続くリビアに対しても多くの制裁を敷いており、昨年の対リビア輸入額は対ロシア輸入額の半分以下の約15億ドルだったが、関税は31%引き上げられた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米3月小売売上高1.4%増、約2年ぶり大幅増 関税

ワールド

19日の米・イラン核協議、開催地がローマに変更 イ

ビジネス

米3月の製造業生産0.3%上昇、伸び鈍化 関税措置

ビジネス

カナダ中銀、金利据え置き 米関税で深刻な景気後退の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気ではない」
  • 3
    【クイズ】世界で2番目に「話者の多い言語」は?
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    紅茶をこよなく愛するイギリス人の僕がティーバッグ…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    NASAが監視する直径150メートル超えの「潜在的に危険…
  • 9
    あまりの近さにネット唖然...ハイイログマを「超至近…
  • 10
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 1
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 2
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 3
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止するための戦い...膨れ上がった「腐敗」の実態
  • 4
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 5
    「ただ愛する男性と一緒にいたいだけ!」77歳になっ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 7
    コメ不足なのに「減反」をやめようとしない理由...政治…
  • 8
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 9
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 10
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 9
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story