コラム

反政府軍の中核、HTS指導者が言う「全シリア人」には誰が含まれている? アサド政権崩壊を単純に祝福できない理由

2024年12月10日(火)21時40分

HTSはアルカイダの分派であり、アメリカやEUがテロリスト、ジハーディストとみなしてきた団体でもある(だからダマスカス陥落後もバイデンはHTSに支援を約束していない)。

HTSは2016年頃からシリア北西部を拠点にアサド政権と対決してきたが、占領地では宗教マイノリティに対する迫害や強制改宗、女性の拘束や性的暴行なども数多く指摘されている。


そのHTS率いる反政府軍がダマスカスやアレッポを制圧した際、HTS指導者アブー・モハメド・アル・ジュラニは兵士に「慈悲深さ、親切さ、丁寧さを示せ」と指示した。一般市民にHTSが危険でないと思わせるためだったと推察される。

ただし、「HTSは変わった」と判断するには時期尚早だろう。

シリア人とは誰か

シリアの今後をうかがわせるのが、アル・ジュラニが首都ダマスカスで行った勝利宣言だ。

このなかでアル・ジュラニは「これまでシリアが外国に支援される一握りの権力者に支配されていた」、「全シリア人のためのシリアを取り戻す」と強調した。

これだけ聞けば、革命の指導者らしい発言ともいえる。

ただし、注意すべきは「全シリア人」とは何を意味するかだ。

そもそも多くの途上国・新興国では植民地時代のいびつな国境により、国内に数多くの民族、宗教が混在しやすく、「国民」としての一体感さえ持ちにくい国が多い。その状況で国民としての一体性を強調すればするほど、少数派を排除したり、同化したりする圧力になりやすい。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米司法長官にボンディ氏承認、トランプ氏に最も忠実 

ワールド

トランプ氏が「米のガザ所有・復興」提案 住民の恒久

ワールド

米CIA、全職員対象に早期退職募集=関係筋

ワールド

フィリピンCPI、1月は前年比+2.9%で横ばい 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:中国経済ピークアウト
特集:中国経済ピークアウト
2025年2月11日号(2/ 4発売)

AIやEVは輝き、バブル崩壊と需要減が影を落とす。中国「14億経済」の現在地と未来図を読む

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 2
    「体が1日中だるい...」原因は食事にあり? エネルギー不足を補う「ある食品」で賢い選択を
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    マイクロプラスチックが「脳の血流」を長期間にわた…
  • 5
    中国AI企業ディープシーク、米オープンAIのデータ『…
  • 6
    脳のパフォーマンスが「最高状態」になる室温とは?…
  • 7
    DeepSeekが「本当に大事件」である3つの理由...中国…
  • 8
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 9
    メキシコ大統領の外交手腕に脚光...「トランプ関税」…
  • 10
    AIやEVが輝く一方で、バブルや不況の影が広がる.....…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」を予防するだけじゃない!?「リンゴ酢」のすごい健康効果
  • 4
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 5
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 6
    「靴下を履いて寝る」が実は正しい? 健康で快適な睡…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    老化を防ぐ「食事パターン」とは?...長寿の腸内細菌…
  • 9
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 10
    「やっぱりかわいい」10年ぶり復帰のキャメロン・デ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 9
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 10
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story