コラム

反政府軍の中核、HTS指導者が言う「全シリア人」には誰が含まれている? アサド政権崩壊を単純に祝福できない理由

2024年12月10日(火)21時40分

シリアの場合、人口の74%をイスラームのスンニ派が占める。アサド政権は少数派シーア派が要職を占め、シーア派で共通するイランやヒズボラから支援を受けていた。

そのため、HTSはこれまでイランやヒズボラとも対決し、占領地ではシーア派住民にスンニ派への改宗を強制するなどしてきた。


つまり、アル・ジュラニが強調する「全シリア人のためのシリア」にシーア派住民の居場所があるかには疑問が残る。

民主的な選挙が行われたとしても

実際、体制が打倒された時ほど、それまでの既得権者である旧体制派と、それを簒奪した新体制派の対立は先鋭化しやすい。その一例としてシリアの隣国イラクを取り上げてみよう。

イラクでは2003年のアメリカの侵攻によってサダム・フセイン政権が崩壊した。その後、アメリカの支援で民主的な選挙が行われた結果、イラク人口の約60%を占めるシーア派中心の政府が発足した。

ところが、フセイン体制がスンニ派で占められていたため、それに対する怨嗟もあり、結局その後のイラク政府ではシーア派が優遇された。

このスンニ派の不満は、アルカイダや「イスラーム国(IS)」がイラクで勢力を拡大させる土壌になった(アルカイダやISはスンニ派)。

とすると、宗派対立やテロの発生に民主的な選挙の有無はあまり関係ない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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