コラム

「中東唯一の民主主義国家」イスラエルの騒乱──軍やアメリカも懸念する司法改革とは

2023年07月31日(月)15時55分

独立以来、常にイスラーム世界と戦ってきたイスラエルにとって、軍が国家のより所であるだけに、ハレビ参謀総長の懸念は杞憂ではないだろう。そのため、イスラエル最大の同盟国として「占領政策」を事実上黙認してきたアメリカでさえこの問題を無視できず、バイデン政権はしばしば「司法改革への懸念」を表明してきた。

支持基盤を優遇するあまり国家そのものの行方をも危うくしかねないことは、民主主義であるかどうかに関係なく、往々にして発生する。しかし、イスラエルのそれはパレスチナとの対立、ひいてはイスラーム世界との対立をも招きかねない。

 
 
 
 

「イスラームの盟主」とも呼べるサウジアラビアは、ライバルであるイランを抑制するため一時イスラエルと接近したが、今年3月にイランと国交を回復し、急ピッチで関係改善を進めている。それは入れ違いに、イスラエルとの短い蜜月が終わったことを示唆する。東エルサレムのアル・アスク・モスクをめぐる問題で、サウジ政府はイスラエルの「挑発行為」を非難している。

こうした緊張をよそに、「戦争を先導するが自分は戦争に行かない」イスラエルの一部の有権者が声を大きくすることは、いわば中東情勢をより緊迫させかねない。イスラエルの司法改革は、いわば内輪の論理が全体を危うくする好例といえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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