「中東唯一の民主主義国家」イスラエルの騒乱──軍やアメリカも懸念する司法改革とは
イスラエルの場合、ネタニヤフ首相が2019年に汚職などの容疑で起訴され、裁判が現在進行形で続いていることも、司法改革への批判を強める背景になった。
そのため、今年1月に司法大臣が改革案を発表した直後、最大都市テルアビブで数万人の抗議デモが発生し、それを皮切りに抗議活動は各地に広がってきたのである。
そのなかで警察はしばしば放水銃や閃光弾なども用いてデモ隊を鎮圧してきた。
イスラエルを分断するもの
ネタニヤフ政権への批判は広範囲にわたり、7月24日にはイスラエルを代表する150の民間企業は共同で司法改革に反対した。また、「中東のシリコンバレー」とも呼ばれるイスラエルではICT系を中心とするスタートアップ企業が多いが、その連合体の調査によると、加盟企業の約70%が社会不安などを理由に国外移転を検討している。
こうした抗議は、政府の権威主義化だけが理由ではなく、そこにはユダヤ教保守派に対する優遇への反発も見受けられる。
旧約聖書の記述をそのまま受け止めようとするユダヤ教保守派は超正統派とも呼ばれる。
最高裁はジェンダー平等や性的少数者の権利保護などで、これらに否定的な超正統派としばしば対立してきたが、そのなかでも最大の争点の一つが徴兵制の免除だった。
独立以来、周辺のアラブ諸国と対立してきたイスラエルでは男女とも徴兵制の対象になるが、いくつかの免除条項がある。ユダヤ教徒でもとりわけ信仰に忠実な超正統派であること、なかでも神学校で学んでいることはその一つだった。
マイノリティの信仰と徴兵制が摩擦を招くことは珍しくない。ナチスによる徴兵を拒絶した「エホバの証人」がヒトラーに粛清されたことは、その典型的な事例だ。
イスラエルでは独立当初、超正統派がごくわずかしかいなかったため、この免除は受け入れられやすかった。
しかし、1970年代からの宗教復興により、超正統派は現在、全人口の10%程度を占めるに至っている。それにつれて世俗派の不満は大きくなり、2014年には当時連立政権の一角を占めていた中道右派政党の主導で、超正統派に対する免除が法的に廃止された。
ところが、その後ネタニヤフ政権がより一層右傾化するなか、超正統派の免除の再導入を提案する政治家はしばしば現れたが、その度に裁判所はこれを阻んできた。
かつてと異なり、超正統派に基づく右派政党は今やネタニヤフ政権の中核を担っており、イスラエル政治の本流に近い位置にある。それにもかかわらず徴兵制が免除されれば、マイノリティに対する配慮というより発言力を背景にした特権といった方が良い。
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