コラム

ウクライナ戦争を見ても「強制的な徴兵」が世界でほとんど復活しない訳 「国民の拒絶反応」以外にも理由が

2023年06月19日(月)14時50分

自発性なき強制の限界

世界の安全保障環境が厳しさを増しているなか、日本でも一部の言論人が「徴兵制」をしばしば口にする。その多くは古典的なものの'復活'を支持しているようだ。

韓国、イスラエル、台湾などでは古典的な徴兵制に近いものが運用されている。しかし、これらは国民のかなりの割合の支持があって初めて成立する。

逆に、そうでない国にとって自発性をともなわない徴兵は逆効果とさえいえる。

だからこそ、選択と同意を前提とする制度を採用した国を含めても、ヨーロッパで徴兵制のある国は昨年段階で48ヵ国中18ヵ国と3分の1以下にとどまり、イギリス、イタリア、スペイン、ポルトガルなど徴兵制の再開がほとんど議論されない国も珍しくない。

これに関してイギリス国際戦略研究所のフランツ・ステファン・ギャディ研究員は「徴兵制はロシアの脅威に対する解答にならない」「むしろ予備役を充実させるべき」と主張する。

もっとも、ギャディの議論は普段は市民として生活し、訓練と任務の時だけ招集される予備役(日本では予備自衛官)を重視するものだが、これは選択と同意を前提とする点でスカンジナビア方式などを採用する国の考え方と表裏一体ともいえる。

つまり、どんな方式を採用するにせよ、国家の安全を確保するうえで重要なのは個人の意思を尊重することといえるだろう。言い換えるなら、昔ながらの徴兵制にこだわっても生産性は低いのである。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

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プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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