中国はロシアに協力するふりをしつつ裏切るか──中央アジア争奪をめぐる暗闘
これに加えて、天然ガスの産出国が中央アジアに多いことも、中国にとっての重要度を高めている。2022年の中央アジア5カ国と中国の間の貿易額は700億ドルにのぼり、このうち最大の経済規模をもつカザフスタンとの間のそれは310億ドルを占めた。
急速に高まる中国の存在感に、現地では反中感情も表面化しており、米シンクタンク、オクサス協会によると、2018年1月1日から2021年6月30日までの間にカザフで反中デモは241回発生した。
しかし、それでも西安サミットで習近平は中央アジアと中国の間のパイプライン建設をさらに加速させると強調した。
そこには中央アジアだけでなく中東への関心も含まれているとみた方がよい。
今年3月、それまで国交を断絶していたサウジアラビアとイランは中国の仲介で外交関係を修復した。これによって中東における中国の存在感はかつてなく高まった。
ところで、中東と中国をつなぐ陸路のルート上には中央アジアがある。つまり、中東からパイプラインを敷設し、エネルギー安全保障を強化する場合、中央アジアを取り込むことが中国にとって死活的な重要性をもつのだ。
ロシアがいないところで
第3に、中央アジアへのアプローチ強化が、ロシアのいないC5+1で打ち出されたことだ。
中国とロシア、そして中央アジア各国がいずれも参加する組織としては上海協力機構(SCO)がある。
しかし、このタイミングのSCOで中国がアプローチ強化を打ち出せば、ロシアの露骨な警戒を招くだけでなく、カザフなどに「中ロが一体となって締め付けを強めようとしている」と思わせかねない。
その場合、カザフなどはむしろ先進国への接近に舵を切る可能性も大きい。
むしろ、ロシアがメンバーではないC5+1で中国がアプローチ強化を打ち出したことは、カザフなどに「ロシア以外の大きな選択肢」として中国を意識させやすいといえる。
これがロシア政府の神経を苛立たせることは疑いないが、かといって表向きは文句を言うこともできない。
もっとも、こうしたことは初めてではない。習近平の代名詞ともいえる「一帯一路」構想は2013年に発表されたが、それはカザフスタン訪問中のことだった。
ユーラシア大陸からアフリカ大陸までをカバーする中国主導の経済秩序の構想は、ロシアだけでなくその縄張りまでも含まれている。
これに対して、プーチンはその翌2014年、旧ソ連圏の経済協力を目指す「ユーラシア経済連合(EAEU)」の創設を発表し、さらにその翌2015年にはEAEUを「一帯一路」と結びつけることを提案した。
この顛末にもやはり、表向きの友好とは裏腹の、中央アジアをめぐる中ロの静かなつばぜり合いを見出せる。
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