コラム

中国はロシアに協力するふりをしつつ裏切るか──中央アジア争奪をめぐる暗闘

2023年06月12日(月)14時20分

ただし、その一方でカザフ政府はウクライナ侵攻にしばしば否定的な反応を示してきた。

昨年9月、ルハンスク州やドネツク州などでロシア編入の賛否を問う住民投票が、両州を実効支配するロシアのテコ入れで行われ、賛成多数の結果が発表された。これを先進国は揃って批判したが、カザフ政府も住民投票そのものを認めないと表明した。

こうした反応は極めて稀だ。そこにはロシアの植民地主義的な態度への疑念があるとみてよい。

プーチン大統領は2014年8月、「カザフ人には国家がなかった」と発言した。要するに「18世紀のロシア帝国による編入がカザフ人に近代国家の観念をもたらした、だから現在の国境線にたいした意味はない」と言いたかったのだろう。

歴史的に正しいかどうかはさておき、この主旨をあえて強調すれば「場合によってはカザフの領土をロシアが取り戻すこともあり得る」となる。この論理が成立するなら、アフリカ大陸もイギリスやフランスのものにできる。

プーチンのこの主張はウクライナ侵攻に関してもよく聞く。プーチンはウクライナ国家の起源をロシア人入植に求め、「ウクライナという国はもともとなかった」、「歴史の誤りを正す」と侵攻を正当化してきた。

とすると、ウクライナ侵攻はカザフ政府にとって自国の領土や主権にも関わる問題といえる。カザフ政府は「西と東、グローバルノースとグローバルサウスとの架け橋になる」と強調しているが、これはロシアと一定の距離を保ちつつ、ロシアとの摩擦を必要以上に高めないためとみられる。

カザフほど鮮明ではなくとも、ウズベキスタンやキルギスタンも「懸念」を表明し、ウクライナ侵攻とは距離を置いている。

このように中央アジアには、国ごとに差があっても、ロシア以外の選択肢を視野に入れる機運があり、それはこの地に関心をもつ国にとって絶好のタイミングともいえる。

中国にとっての死活的重要性

第二に、中国から見た中央アジアがこれまでになく重要度を増していることだ。

この地はもともと中国にとって関心の高い地域だ。

中央アジアと接する中国の新疆ウイグル自治区には、中華人民共和国が建国を宣言した1949年以降、生産建設兵団という名の屯田兵が送り込まれた。その任務はこの地の開拓、少数民族の管理、そして当時ソ連の一部だった中央アジアとの国境警備にあった。

つまり、表面的なアピールとは裏腹に、中国は歴史的にソ連/ロシアへの警戒心を抱き続けてきた。それは今も基本的に同じで、中央アジアを取り込めれば、その向こうにあるロシアとの間に緩衝材を挟む効果が期待できる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、最優遇貸出金利据え置き 10カ月連続

ビジネス

エネ価格高騰、長期化ならインフレ加速・成長鈍化リス

ワールド

トランプ氏、イスラエルにガス田攻撃停止を要請 地上

ワールド

日米、重要鉱物の供給網強化に行動計画 価格下限の導
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 ──「成功」が招く自国防衛の弱体化
  • 4
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 5
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 6
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 9
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 10
    トランプ暴走の余波で加熱するW杯「ボイコット論」..…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 7
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 8
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 9
    住宅建設予定地に眠っていた「大量の埋蔵金」...現在…
  • 10
    「ネタニヤフの指が6本」はなぜ死亡説につながったの…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story