コラム

中国はロシアに協力するふりをしつつ裏切るか──中央アジア争奪をめぐる暗闘

2023年06月12日(月)14時20分

世界の目が向かいにくいタイミング

そして第4に、タイミングの問題だ。

中国による中央アジア進出の加速はロシアだけでなくアメリカからも強い警戒を招きやすい。しかし、米ロはウクライナ侵攻で身動きが取れない。

冷戦期以来、中国は世界の目が一ヶ所に集中しているタイミングで重大なアクションを起こす傾向がある。

1962年10月、中国は領有権争いを抱えるインドのアクサイチンなどに軍事侵攻して実効支配するに至った。これはキューバ危機で人類が核戦争の淵に立ち、米ソがその解決に忙殺されていたタイミングだった。

また、「中国のアフリカ進出」は今やよく知られるテーマだが、その土台ともいえる中国アフリカ協力フォーラム(FOCAC)は1999年5月、中国政府とマダガスカル政府の間でフォーラム創設に関する合意が形成されたことをきっかけにスタートした。

これはちょうど東欧コソボで発生した軍事衝突により、この地を縄張りにしてきたロシアと欧米の対立がエスカレートしていたタイミングだった。

つまり、長年あたためた計画を人目をひきにくいタイミングで実行するのが中国のパターンといえる。

だとすると、ロシアの'裏庭'に背後から手を伸ばそうとする習近平にとって、ウクライナ戦争は世界の目を届きにくくする煙幕ともいえるだろう。これが中国の期待通りに進むなら、その意味でもウクライナ侵攻は大きな歴史の節目になるかもしれないのだ。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

負傷のブラジル大統領がAPEC会議出席取りやめ、G

ビジネス

米マスターカード、第3四半期利益は市場予想上回る 

ビジネス

フォード、業績改善しなければ管理職のボーナス減額へ

ビジネス

英アストラゼネカの中国法人社長を当局が調査、詳細不
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後はさらなる「倒産増加」が予想される
  • 2
    「まるで睾丸」ケイト・ベッキンセールのコルセットドレスにネット震撼...「破裂しそう」と話題に
  • 3
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 4
    脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員…
  • 5
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 6
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 7
    天文学者が肉眼で見たオーロラは失望の連続、カメラ…
  • 8
    中国が仕掛ける「沖縄と台湾をめぐる認知戦」流布さ…
  • 9
    「第3次大戦は既に始まっている...我々の予測は口に…
  • 10
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符…
  • 5
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 7
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 8
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 9
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 8
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 9
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 10
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story