コラム

絶望感、無力感が破壊衝動に 闇堕ちしやすい独身男性とフェミサイドの生まれ方

2023年03月23日(木)16時45分

日本には極めて限定的な内容のヘイトスピーチ規制法しかなく、嫌悪(ヘイト)に基づく犯罪の統計が体系的に収集されていない。そのため、法律上も一般の傷害や殺人として処理されていて、女性嫌悪やフェミサイドだけでなく、ほとんどのヘイトクライムが統計的には空白のままだ。

その理由を政府は「日本にヘイトクライムはほとんどないから」と説明する。しかし、データがなければ、ほとんどないかどうかも確認できない。それは実態が覆い隠されることにもなりかねない。

この数年とりわけ目立つ無差別殺傷にインセル思想がどの程度かかわっているかすら調査できなければ、フェミサイドの実態把握も困難なままだ。

独身を選択したわけでないインセルの増加はライフスタイルの多様化という言葉で飾れない。むしろ、一つの社会病理とさえいえる。

欧米の教訓を踏まえれば、「いかにもインセル」につき物の格差、孤立、メンタル面の不調などに光を当てることは、長い目でみれば社会の安全にもつながる課題なのであり、日本もそろそろ腰を据えてこの問題に向き合わなければならない時期を迎えているといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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