コラム

高度福祉国家、環境保護や男女平等の先進国...「優等生」スウェーデンで民族主義が台頭した理由

2022年09月20日(火)17時40分

ただし、「スウェーデン人のためのスウェーデン」を叫ぶ民主党の政権奪取は、ロシアとみえない糸で繋がっている。

例えば、2017年に14人の民主党議員が、北欧最大の極右勢力ノルディック抵抗運動から資金協力を得ようとしていたことが発覚した。

ノルディック抵抗運動はロシアの極右組織「ロシア帝国運動」(最近話題のロシアの軍事企業ワグネルとは表裏一体)とも関連が指摘されている。同性愛者、移民、異教徒に冷淡で、強い国家を標榜するプーチンは、欧米の多くの白人ナショナリストにとってヒーローだったからだ。

実際、2017年にイエーテボリの難民キャンプが爆破されたテロ事件で逮捕されたスウェーデン人実行犯は、ノルディック抵抗運動イエーテボリ支部の幹部で、サンクトペテルブルク郊外にあるロシア帝国運動の基地で軍事訓練を受けていたことが発覚している。

こうした経緯から、ウクライナ侵攻後に行われた世論調査で、民主党は支持率を低下させていたが、フタを開けてみれば選挙で過去最高の得票率を記録した。それだけスウェーデンでナショナリズムが高まっているともいえるが、少なくともそこに欧米vsロシアあるいは「民主主義vs権威主義」といったイメージだけでは語れないねじれた構図があることは間違いない。

ロシアを批判する欧米にもプーチンと同じ穴のムジナがいる。「優等生の反乱」はそれを改めて浮き彫りにしたといえるだろう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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